社会科学系の授業を行う際、統計データを用いて「今の社会はこういう趨勢になっているよ」と示すことはままあると思います。しかし学生からすると、「今の社会」と「自分の身の周りの社会」の間には明らかな懸隔があります。そこで私は、今年度ライフデザイン学科で社会学の授業を担当するに当たり、いわば“クラス内世論調査”としてクリッカーを用いることにしました。教室にいる学生たちの意見の分布を調べ、その結果をすぐに学生たちと共有することで、「自分の身の周りの社会」から「今の社会」への理解をつなげることを試みました。
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例えば、「結婚」を取り上げた回では、「今の社会」のデータとして、現代社会の未婚率が上昇していること、また近年見合い結婚が減少していること、を紹介しました。その前段階として学生に「Q.できるなら結婚したいと思っているか」また「Q.結婚するとしたら、恋愛結婚がいいか、お見合いでもいいか」を教室で聞いてみました。結果は以下の通りでした。
実際の未婚率より「結婚しなくてもいい」と思っている学生の方が多く、また実際のお見合い結婚率よりも「お見合いでもいい」と思っている学生が多いことがわかります。これ自体、興味深い結果で、結果としての統計だけを示す危険性を示していると思います。
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また、「宗教」を取り上げた回では、特定の宗教についての信仰があるかを訊いたうえで、さらに日常的な慣習として、「Q.正月の初詣には行くか」「Q.お盆の墓参りはするか」を訊いてみました。
これも興味深い結果で、初詣と比べると墓参りは行っている割合がかなり下がことがわかります。「みんなは『宗教は信仰してない』といっても、初詣やお墓参りは行くよね?」と話を進めるつもりだったのですが、後者については半数近くが行っていないのが、この日の教室の実際だったわけです。学生のなかには、授業後のレポートで「今までお墓参りに行ったことが一度もないから、お盆にお墓参りをすることのなにが宗教に関係があるのかよく分からなかった」と書いてくれた学生もいました。
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あるいは「自殺」について取り上げた回では、昨年の座間での連続女性殺人事件を例に出し、「Q.『自殺したい』というtwitterを実際に目にしたことがある」かどうか、を訊いてみました。残念ながらこの質問の回答結果は保存し忘れてしまったのですが、学生からは「クリッカーのアンケートで死にたいと(中略)言っている人を見たことがないという人が多数で、SNSの使い方が違うんだろうなと思ったし、驚きました。私のtwitterでは1日5回は目にするレベルだったので」という意見がありました。学生の「身の周りの社会」もまたそれぞれであること、それ自体が学生たち自身にとって学びでしょうし、私自身にとってもそうでした。
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もちろん“世論調査”といっても、サンプリングなど行っていないわけですし、欠席者もいますから、本学の学生の声としても十分に正確なものではありません。それでも、学生たちにとって「自分の身の周りの社会」がどのように感じているのか、は興味喚起のきっかけになりえます。また、教員自身にとっても、歳とともにジェネレーションギャップが大きくなっていく中で、教室にいる学生たちの「いま思っていること」を知るうえで、大変有効だと考えます。なお、総じて学生には好評で、最終回のふりかえりで「Q.クリッカーの使用はよかったか」を訊いたところ、以下の通り「とても良かった」が80%を超えており、「あまり良くない」「まったく良くない」は皆無でした。
今後も、社会科学系の授業で活用していきたいと考えています。なお、クリッカーは、株式会社内田洋行のEduClickHEを用いました。
定松 淳