2015年度 日本の伝統美「和のテイスト」研究会

本学が所有する貴重な「王朝衣装(十二単衣・直衣)」を使っての着装研究が始まりました

2015年10月14日

今回からいよいよ「王朝衣装」の学びが始まりました。

本学では「王朝衣装」として、奈良・平安時代以降の公家の女性の晴れ装束である「女房装束」と、公家の男性の常着「直衣(のうし)装束」所蔵しています。

昭和56年、京都の大学ならではのホンモノの装束をと当時の短期大学家政科 野上俊子教授(現 名誉教授)が中心となり、風俗史の第一人者 江馬務先生の監修のもと、葵祭をはじめとする装束の制作をされている黒田装束店で誂えたものです。装束はもちろん、烏帽子・檜扇・襪(しとうず:後世の足袋)などすべて有職故実(ゆうそくこじつ)に則った大変貴重なものです。

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この装束は長年、学生の授業と併せて一般の皆様にも着装の講座として公開して参りましたが、将来、
衣紋者(えもんじゃ: 着付けをする人)の後継者を養成するためにも、当「学Booo」メンバーと教職員が勉強を
していくことにいたしました。
まずはメンバーの文学科教授から、本学所蔵装束がどのようなものであるか、また資料を見ながら
古典の中に記されている衣装描写などを紹介した後、いよいよ着装へ。

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ここからは衣紋の講師としてお願いした元短大助手の先生の指導です。先生は長年講座などでの衣紋を
担当していただいた方であり、「若い人たちが、この素晴らしい日本の伝統文化を理解し継承してくれるなら」とボランティアとしてお請けいただきました。 

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初めてのことでもあり今回は女性の装束のみ、しかも髪(垂髪すいはつ)もつけず、お化粧もせずですが、
出来栄えはとても美しい「お方さま」(着装してもらう人)になっていました !!

まずは、装束の準備から。畳紙(たとうがみ・たとうし:敷紙のこと)を広げ、あれをここへ、それをそこへ。。。

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続いて、装束の入っている帖紙(たとうがみ・たとうし:文庫紙とも)を置きます。正絹の装束はずしっと重く、
どこをどう持てばいいのやら。。。というメンバーもいましたが、だんだんと「扱い」も慣れてきました。

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最初の「お方さま」は心理学科1年生・3年生、キャリア形成学科の2年生になってもらいました。衣紋者は全員が前方と後方の衣紋を交代にさせていただきました。衣紋者(今回は全員)がお方さまに正座をして礼、「礼に始まり、礼に終わる」のは、和の伝統文化ならではの基本姿勢です。

まずは小袖を着しますが、この段階ではお方様、まるで「衣紋掛け」の状態!! とりあえず立っています。。。右手に置いてあるのは緋色の長袴で一般には既婚者の色、未婚者が濃き色(濃い紫)と訊きました。この色は28歳以下とも。ちなみに表には見えない小袖も未婚者は濃き色にするとのこと、すべて意味があり、約束事が守られています。

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長袴を着し、次はいよいよ上に着る装束に移り、単衣(ひとえ)の準備。

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装束の取り上げ方がまた関門で、先生の「袖口に小指をかけて、そことそこを持って云々」との指導に
メンバーも「???」となりながらも無事マスター、上手に持つことができました。ホッ。。。

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単衣からは衣紋紐2本のみで着付けていきます。
襟もとが動かないように抑えつつ、右袖から袖口を持って袖を伸ばし、前方がお方さまの右手を袖へ、
続いて左。前方が衣紋襞(箱ひだ)をとって襟を打ち合わせて胸の上の方から沿わせて衣紋紐を当て後方に
回し、背中心で交差して前に来て結ぶ、後方も衣紋襞をとって形を整える。次の装束を重ねて同じ動作を繰り返し、前方は先に結んだ衣紋紐を引き抜く。。。この繰り返しで打衣(うちぎぬ)→表着(うわぎ)まで着付けていきます。単衣・五衣(いつつぎぬ)とも呼ぶ袿(うちぎ)・打衣・表着までの合計8枚がこの着付け方です。

薄萌黄色(うすもえぎいろ)の単衣を着し、次がいよいよ袿、いわゆる五衣(いつつぎぬ)です。「山吹匂襲(やまぶきのにおいがさね)」という襲色目、黄色というより優しい桃色と朱色の間のような色合いの濃淡で、薄い色から濃い色へと重ね着していき、襟・袖・裾に美しいグラデーションができ上がっていきます。
袿の山吹の花の色の下に、控え目に見える単衣の葉の色、これこそ日本人の美意識と実感。。

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装束の持ち方を、早速先に習ったメンバーが次の人に伝授。人に教えることによって、自身の学びになることがいっぱいです。

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そして、打衣、表着へ。
お方さまの身長がいささか高く、着重ねて厚みもあり、装束を肩に掛けるのも「ヨッコイショ」で一同
小さく失笑。でも、ここまで来ると総力挙げての着付け、みんなのチームプレー、お見事でした。

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また楽しい会話が。。。誰かが山吹匂襲の袿のお方さまを「うわ~、人参やわ」と言って笑わせたあと、紅色(くれないいろ)の打衣を見て「うわうわ、人参から林檎やん!!」。
これには指導者もさすがに吹き出しました。学生の皆さん、襲色目の気品ある美しさを、ちゃんと表現してくださいね。

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持ち方も難しい唐衣(からぎぬ)の指導を受ける人の向こうのお方さま、両肘をメンバーに預けています。
そろそろ総重量30kg近くなってきた装束の重さにバテ気味で、二人に応援要請して「人間脇息」?! で
お寛ぎ中。固い友情と、伝統文化の重みを体感できたのではないでしょうか。
これだけの装束を身に着けて、平安時代の貴族は身のこなしも大変だったでしょうね。
お方さまの名言、「このまま立ってるし、誰か手押し車で運んで~~」。。。納得。

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最後に裳を着し、小腰という紐を前で結んで、すべての装束を固定することになります。懐紙を懐中し、檜扇を持って完了、衣紋者はお方さまに礼をして終了です。
記念撮影のあとは全員でお片付けですが、これがまた大変。たたみ方をきちんとしないと大切な装束を
痛めてしまいます。浴衣しかたたんだことのない人がほとんどでしたが、先生のご指導のもと、みんな一生懸命取り組みました。

本学には、触れる機会さえ得難い貴重な王朝衣装を、実際に着付けて学ぶという恵まれた環境があります。歴史・文化・服飾美の知識習得、衣紋の体得とともに、古来より日本人が大切にしてきた「美しさ」への感性を大いに磨いてほしいと願っています。

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以下の写真は唐衣・裳を省略した姿です。紐で固定していないので、一度着付けたそのままの容で脱いだ状態の「空蝉(うつせみ)」をまた次の人が袖を通して着ることができます。他のメンバーも着てみました。

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