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教員コラム

となりのトトロを考える①

学生とジブリ作品を観ながら感想を語り合う授業を続けてきた。
「ファンタジーの意味」を読み解くことから「深層心理学を学ぶ」ことが目的だったが予想以上に面白かった。私が面白かっただけでなく学生も面白がってくれた。「おもしろい」(インタレストを感じる)は、何より大切な学問姿勢である。

私は教育カウンセリングを専門としている。心の深いところ(深層心理)が影響して、常識的観点からはわからない言動(異常)をきたしている児童生徒・学生たちを「わかろうとする」「なおそうとする」仕事である。その「わかろう」「なおそう」とする支援の仕方を学生に伝えたいと思っている。

実際に、常識的に理解しがたい、信じがたいことが人間には起きるものだ。特に子どもは大人から観て、不可思議なことを言ったり、しでかしたりすることが多い。教師や親は心配したり悩んだり腹を立てたり責任を感じたりする。

たとえば、三歳の女の子の次のような事例については、どのように考えればいいのだろう。

この子は、家の庭から少し離れた森のしげみの中、日だまりのような空間で倒れていたのだった。実は眠っていたのだが、寝ているところを、さがしていた姉(十歳)に発見される。
「こらっ、おきろ!」「だめじゃない、こんなところで寝てちゃ」と姉に起こされて、「トトロは?」ときく。狐につままれたようにあたりを見回す。あきれ半分おどろき半分の姉に、大まじめで身振り手振り、両手をおもいっきり広げて「こーんなに大きいのがねてた」と言う。

そのとき、父が遅れてやって来る。「お父さん、メイ、ここでトトロにあったんだって」と姉、サツキは言う。
メイは姉と父を「こっち」と案内し、更に茂みの中へ。茂みのトンネルのような獣道を走り、陽の当たるところに出ると、そこは家の庭だった。メイは身を翻してふたたび茂みの中に捜しに行く。しかしまたすぐに茂みから飛び出して来てしまう。一瞬あっけにとられていた父と姉だったが、サツキが笑い出し、父も笑い出す。

メイは怒る。全身で抗議する。「ほんとだもん!ほんとにトトロいたんだもん!うそじゃないもん!」
笑うのをやめた二人はメイを見守る。
サツキはメイの方に小走りに近づき寄り添う。父はちょっと考え込む。メイが何者かに出会ったのは本当なんだと。父はメイに近づき、腰を屈めてメイをのぞき込む。

父「メイ」と言うがメイはブスーっと怒っている。
メイ「ウソじゃないもん」
父「うん、お父さんもサツキも、メイがウソつきだなんて思ってないよ。」「メイはきっと、この森のぬしに会ったんだ。それはとても運がいいことなんだよ」「でも、いつも会えるとはかぎらない」

目をぱちくりしているメイにお父さんの手がのびてきてメイの脇の下にあてがわれる。メイはそのまま持ち上げられる。
メイを肩車しながら父は言う。

「さあ、まだ、挨拶に行ってなかったね」
さつき「あいさつ?」と意味がわからない。
父「塚森へ出っぱーつ」と歩き始める。

【②に続きます】

藪添 隆一(2017年3月24日)