京都光華女子大学 健康科学部 心理学科 ニュース 弱さ・信念・個性―オリンピックTV観戦より③

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教員コラム

弱さ・信念・個性―オリンピックTV観戦より③

2014年ソチ五輪前後の、髙橋大輔さんの引退は本当に残念でした。ファンとしては、ソチ五輪での髙橋選手のショート・プログラムは、情熱的なタンゴが似合う、髙橋選手の個性と大人っぽさで魅せる選択だったと思いました。しかし、フリーの「ビートルズ・メドレー」の構成は、静かな雰囲気の曲の部分が彼の個性にとっては長く、成熟した演技を見せるために無理をしすぎているのでは?という気がしました。つまり攻めの姿勢で挑んだことが、結果的には、「髙橋大輔」を表現しきれない演技プログラムにしたのではないでしょうか?

今、男子フィギュアのシニア部門では、ソチ五輪で金メダルを獲得した羽生結弦選手の凄まじい気迫と貫禄、そして19歳の宇野昌磨選手の急成長が、なんと言っても気にかかるところです。

ピョンチャン五輪に出場する羽生結弦選手は、今23歳。前オリンピックの時の髙橋大輔さんと同じ年齢となりました。羽生選手の場合、震災被災者であること、体質的な課題を、「自分の中での強さ」に変え、誰を責めることもなく、またその事実を隠さず、かつ、そのことで世間の支持を得ようとしないブレのない姿勢に、人間としての素晴らしさを感じます。それは、「ビールマン・スピン」「イナバウアー」という、男子選手は普通できない体の柔軟性を活かした美しい技をしたいと思ったら、それを本当にやってみせるといったところにも表れています。

彼はソチ五輪での金メダル獲得後、誰からも目標とされる「絶対王者」となり、次々と若い選手が上手くなって追い込んでくる中で、孤独な王者として、競技を続けるということになりました。そして、やはりというべきか、羽生選手も度重なるアクシデントに苦しみながら、2018年ピョンチャン五輪を迎えました。直前の試合にも出場できないケガに見舞われ、また今回は「絶対王者」として挑戦することになります。彼が幼い頃から憧れる、プルシェンコさんのように。ファンとしては、静かに見守るといった心境で応援しています。現地到着時の空港でインタビューに答える彼の表情は、これまでとは全く違っていました。

このような、弱気になって揺るいでも必ず修復するブレない信念、苦難を未来へのエネルギーとする選手たちの心の強さが、もしかすると、私が男子フィギュアから目が離せない理由なのかもしれません。

石谷みつる(2018年2月15日)