京都光華女子大学 健康科学部 心理学科 ニュース “夜空ノムコウ”の“騒がしい未来”

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教員コラム

“夜空ノムコウ”の“騒がしい未来”

私はクラシック音楽、特にオーケストラが好きなので、時々、演奏会に足を運びます。1月下旬、少し遅めのニューイヤーコンサートを楽しみにしながら演奏される曲についてインターネットで少し調べていると、その曲が日本で初演された戦前期には難曲とみられていたとのこと。演奏会後、久しぶりに聴くオーケストラの生演奏の余韻に浸りながら、ふと“戦前期の日本では難曲”だったものがこんなに素晴らしく演奏されていること自体にも感動しました。考えてみれば、ヨーロッパで生まれた西洋の音楽を日本人が理解し、演奏技術を高め、私のような一般人もそれを享受できるのは、今まさに活躍されている音楽家の努力・才能・運・周囲からのサポートだけではなく、日本でクラシックに携わってきた人々の長い時間にわたる知識や技術、そして情熱の集積のお陰でもあるのでしょう。

また、2月には冬季オリンピックが開催されました。普段、ほとんどスポーツ観戦をしない私も、いくつかの試合を見て、応援していました。そしてアスリートの活躍に感嘆すると同時に、その背後に広がる長い時間のことも少し想像してみました。もっと速く、もっと遠くへ、もっと美しく。勝った選手はもちろんのこと、負けた選手も、ある時期に切磋琢磨したライバルも、直接的・間接的にサポートするスタッフも、今回のメダルや記録に貢献しているのだと思います。皆それぞれにその世界の一部として機能していて、皆で取ったメダル、皆で作った記録、ということなんだろうと思います。

心理学を含む学問も、これと通ずるところがあります。「巨人の肩の上に立つ」という言葉があります。巨人の肩の上に立つと、より遠くまで多くのものを見渡すことができます。同じように、学問は、先人の発見や知識を踏まえた上でさらにその一歩先を拓いていくものです。もしくは、レンガや石垣のようなものの上に小さな石をひとつ乗せたり、すきまを埋めたりするような側面もあるかもしれません。学生の皆さんにも、ぜひ心理学を楽しく学びながら、それを基に、自分の考えを進化・深化させていっていただけたらと願っています。私も、勉強・研究を続けていきたいと思っています。

「あのころの未来にぼくらは立っているのかなぁ」(SMAP「夜空ノムコウ」)という歌詞をご存知の方は多いと思います。現在は疑いなく、「オーケストラが初演した頃」の未来であり、伝え聞いたことですが「あるデータ分析をするのにパソコンで一晩かかった頃」の未来、なんですね。(注:心理学研究ではデータを扱う分野も多くあるのです。)音楽、スポーツ、学問に限らず、こういった集団での時間的連続性を持った活動はおよそすべてのことに当てはまり、もしかしたら何も特別なことではないのかもしれません。ただ、普段からそれを意識することは少ないが故に、それを改めて考えたときに感動します。

年度末という区切りが近づき、個人レベルでも、過去・現在・未来の繋がりを意識することがあるのではないかと思います。卒業や入学といった節目に、期待と不安でいっぱいの人も多いかもしれません。私は、こんな風に考えたいなと思っています。

今、「あのころの未来」を生きることができているのは、とてもラッキーなこと。
そして、この先も、「きっと 想像した以上に 騒がしい未来が僕を待ってる」(スピッツ「チェリー」)はずだ、と。

神庭 直子(201836日)