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教員コラム

占いと心理学(前編)

皆さん占いはお好きでしょうか。テレビや雑誌で運勢をチェックしたり、おみくじを引いたり、占い師に占ってもらったり、日常生活では様々な形で占いと関わる機会があるかと思います。一方で、占いはいわゆる学問とは遠いものであり、大学での学びとは関係が薄いというイメージがあるかもしれません。

そんななか、心理学は占いと関係が深い学問の一つといえるかもしれません。占いについて心理学的に研究する切り口はさまざまにあるのですが、それはまた大学に入学されてから学んでいただくとして、ここでは大まじめに真正面から占いに取りくんだ心理学者のことを紹介したいと思います。

100年ほど前に活躍した、スイスの精神科医であり心理学者であったユングという人は、東洋思想に関心を持ち、易(えき)という中国の思想を背景とした、いわゆる占いについて研究しました。自分自身、実際に占ってみたりしていたようです。そんなふうにいうと、学者としてはだいぶあやしい人に聞こえますが、そこにはユングの専門と深くかかわった理由がありました。

ユングは心理療法という、解決困難な問題や大きな苦しみを抱えた人々を援助することを専門としていました。人は生きていればさまざまな問題にぶつかりますし、不幸としかいいようのない状況に置かれたりします。それらはまったく意味もなく突然私たちのもとにやってきて、「なぜ私がこんな目にあうのか?」と思わざるをえない、理不尽なものであることも少なくありません。

人がそうした苦しみを乗り越えようとするとき、その苦しみの源がまったく自分のせいとは思われない、身にふりかかった不幸としかいいようのない状況であっても、「私」にとってのその意味を考えることになります。人間にとっては、無意味な苦しみというものが、もっとも耐えがたい。そこで、そこに何らかの意味をみつけようとするわけです。

理不尽な苦しみであっても、人生全体を見わたしたうえで、その意味がわかれば、その苦しみは「私」の人生のなかに居場所をあたえられ、心におさめられることになります。心理療法はそのような心のプロセスを歩んでいくための援助をするものだ、というふうにもいえると思います。

中編に続きます】

今西 徹(2015年10月26日)