家族のケア役割を担う子どもがいるという事実

高校生の5.3%がヤングケアラーだった

「ヤングケアラー」という言葉を聞いたことがありますか? 最近、メディアで取り上げられることが多いので、見聞きしたことのある人がいるかもしれません。日本にはまだ正式な定義がありませんが、「疾病、障害等を有する家族がいるために、家事、介護、感情的サポート、年下のきょうだいの世話、通訳などのケアを担っている子どもまたは若者」と言えると思います。イギリスでは1980年代から実態調査も始まっていましたが、日本ではようやく認知され始めてきた言葉です。

「ケアを要する人」は、障害や病気のある親や祖父母だけでなく、兄弟姉妹や他の親族の場合もあります。そして、身体的なケアだけでなく、アルコールやギャンブルなどで問題を抱える家族の対応、精神疾患の家族の精神的サポート、日本語でコミュニケーションがとれない家族の通訳なども「ケア」に含まれます。

埼玉県が高校2年生を対象とした調査を2020年に行っていますが、私は、その2年前、2018年に、埼玉県の高校生4,550人を対象に共同研究者とともに調査を行いました。その結果、家族へのケアを担っている生徒は5.3%。40人クラスだと2人はいることになります。ケアを必要としたのは祖母、母親、祖父が多く、次いで弟・妹、父親でした。身体障害や認知症の祖父母、精神疾患や精神的な不安定さを抱える母親のケアをする場合も多くみられました。ケアの頻度は、毎日が最も多く、週4~5日と合わせると実に半数を超え、ケア期間の中央値も3年11か月と常態化・長期化していることがわかりました。

人に言えず、家庭ごと社会から孤立することも大きな問題

調査の結果、注目すべきは、ケアをしていることを家族以外の誰にも話したことがないと答えた生徒が半数以上いたことです。ケアを担っているために学校を休んだり、クラブ活動ができない、修学旅行に行けないなど、高校生らしい生活ができないことはもちろん問題ですが、家族の問題は家族の中だけで解決すべきという価値観から、他人に言ってはいけないと親に言われたり、自分も恥ずかしくて言えなかったりして、友人との距離ができ、家庭ごと社会から孤立してしまうことも大きな問題です。

一定期間ずっと家でケアの役割を担い、それがきっかけで不登校になったり、学校ではケア経験を話すことができず、友だちと話が合わないという話を聞いたこともあります。また、家に帰っても緊張感を持ちながらケアをしているため24時間気が休まらず、ストレスで体調を壊し、学校に行けなくなった元ヤングケアラーにも出会い、子ども時代だけではない、子どもの未来にまで影響する問題だとわかりました。

現在、私は、ヤングケアラーの当事者会「ふうせんの会」の事務局長も務めています。会では、ケア経験のある若者たちが経験談を語りあったり、抱えている思いを吐き出せる「つどい」を開催しています。「誰かに聞いてほしかった」「自分だけじゃなかった」という思いを持てると救われることがありますし、他者の視点も交えて振り返ることによって、ケアの経験を人生の中で大切なものとして位置づけ直すこともできるようです。ケア経験したことをポジティブに捉え、福祉や医療・看護の道に進んだ人にもよく出会いますね。「つどい」の場が、他の地域にもできていくといいなと願っています。

子ども個人ではなく、家庭の問題として解決にあたる

多くの専門職が連携してアプローチすることが必要

家族のケアをすることは決して悪いことではありません。でも負荷が大きくなりすぎると、家庭の中で一人の子どもが担うにはあまりにも重く、後に残る影響も大きいものです。現代の家庭は人数も少なく、非常にぜい弱です。病気、事故、失職…何かがあれば、しわ寄せが子どもに来る。その状況を学校の先生や福祉の専門家に気づいてもらえない、気づいてもらえても「大変だね」「えらいね」と済まされてきたことが問題をより深刻にしてしまいました。私たち福祉の専門職側の意識の問題もあります。ケアに家族の協力は当たり前という認識もあったのではないかと思うのです。

ヤングケアラーの問題は、子ども個人に対応しているだけでは解決できません。家庭全体の問題として対応しなければならないと私は考えています。たとえば、一人親家庭の親が精神疾患で仕事ができず、生活保護を受けていて、子どもが家事と親のケアをしているといったケースに必要な支援は一つだけではありません。関わるべき専門機関も複数です。どのような制度、サービスを活用するのかを検討するには社会福祉の高い専門性が必要です。さまざまな機関や専門職と連携し、時には地域の人の協力も得て、家庭のどの部分に、どのようなアプローチをしていくかが重要だからです。多くの専門職が連携するには、扇の要になるようなコーディネート役も必要です。私は、それらの役割が期待されているのがソーシャルワーカーだと思っています。

「ヤングケアラー」という言葉が注目されるようになった今、国会で総理大臣も言及し、家事や子育てを支援する制度を整備する見通しとなりました。この貴重な機会をなんとか生かしたいと思います。児童虐待の問題について、家庭の問題とせず、社会全体で防ごうとする機運が高まってきたように、ヤングケアラーに対しても、先生や福祉の専門職が早期に気づき、声をかけるなどしてケアラー本人を見守ると同時に、一部自治体で始まったような専用の窓口を設けて専門職チームによる支援を行える社会にしていきたい。一時のブームに終わらせないためにも、地道な取り組みを続けていきたいと思います。

究め人のサイドストーリー

大学時代、「オブリガード」というボランティアサークルに参加していました。オブリガードとは、ブラジルの言葉で“ありがとう”の意味。当時、多くの日系ブラジル人のご家族が、仕事のために日本へ来られていました。昼夜交代で働く親の傍らには、学校が休みの間、昼間過ごす居場所のない子どもたち。私たちは、夏・冬・春の長期休暇中、場所を提供してくださった教会にローテーションを組んで泊まり込み、子どもたちと遊んだり、勉強したり、ご飯を食べたり、濃密な時間を過ごしました。ブラジルの文化で育ち、明るくて、サンバなどダンスの上手な子どもたちは非常に魅力的で、私たちに多くのことを教えてくれました。支援しているというより“一緒に過ごしてくれてありがとう”という気持ちでした。
慣れない日本社会の中で暮らす子どもたちやご家族の周りには、たくさんの壁があっただろうと思います。どんな環境にいる子どもも、幸せに生きていってほしい。私の中にそんな気持ちを育んでくれた、大事な大事な経験です。

子どもが子どもらしく生活するための法制度や福祉の諸問題を学ぶ

ソーシャルワーカーは、社会全体に影響を与えられる仕事

私の担当する「児童・家庭福祉」は、子どもが子どもらしく生活するために必要な法制度の全体像を、歴史的な視点も交えながら学ぶ科目です。たとえば児童虐待の問題なら、解決のためにどのような法制度があるのか、自治体と児童相談所はどのような関係にあり、どのような連携をして対応しているのかについて詳しく学びます。現場で働く方にゲストスピーカーとして話していただくこともあります。問題の実態はどのようなものか、解決のために法制度をどのように使うのかについて、実際のケースを例に、実践的に理解することができます。将来のキャリアを考える上でも、現場で働く人のお話は貴重です。

社会福祉専攻の学生の多くは社会福祉士の資格取得を目指しています。将来、ソーシャルワーカーとして働く人も多いでしょう。かつて私も携わっていたこの仕事は、生活上の問題を抱えている人や地域の課題に気づき、制度があれば活用し、各分野の専門職と連携して、問題の解決を図ろうとするものです。しかし、ヤングケアラーの問題のように、法制度の整備が追いついていないものも多くあります。そんな場合は、NPOや地域の方などに協力いただくこともあります。制度と市民の活動の両輪で実践することの大切さを実例から学びます。法制度の不備を補う草の根の活動の中に、同様のニーズが数多く見つかると、それに応える仕組みが必要となりますよね。そこから、やがて新たな制度が生まれてきたことは歴史を見ても明らかです。

私がかつて担当したケースでは、人工呼吸器をつけ、生きるためには常時たんの吸引が必要な子どもを、お母さんが一人で24時間ケアしている家庭がありました。このような医療的ケアは、医療職か家族しか携わることができなかったため、お母さんは疲労困憊でした。そこで、医師、医療ソーシャルワーカー、コミュニティソーシャルワーカー、福祉事務所、緊急時にすぐ来てもらえるよう地元の消防署とも連携し合える環境を作った上で、看護師資格を持つ協力者を探し、週に一回吸引を担当してもらうようお願いしました。お母さんから「これで美容院に行ける」と喜んでもらえたことを今も憶えています。当時は、医療的ケア児を支える制度がなかったのですが、今年6月、国や自治体に対して必要な対応を求める「医療的ケア児支援法」が成立しました。感慨深いです。

コロナ禍の今、社会に対して「もう少しなんとかならないかな」という気持ちを持つ人も多いでしょう。ソーシャルワーカーは、そんな気持ちを仕事で表すことができる、とてもやりがいのある仕事です。「縁の下の力持ち」で目立たないかもしれませんが、目の前の一人を支援することによって、社会全体に影響を与えられる仕事だと思います。

高校生へのメッセージ

先が見通しにくい時代だからこそ 幅広い教養を身につけることが 大切です

先の見通しにくい時代、多様な価値観を知り、さまざまな角度から物事を見て判断する力、広い視野で考えて自分の人生を進む力、これらを養うには大学での4年間という時間が必要だと思います。専門分野を学びたいのに、基礎教養科目があるのは面白くないと感じる人もいるかもしれませんが、こういう時代だからこそ幅広い教養を身につける事はすごく大切。学びの中で心に引っかかって、やりたいなと思うものを見つけて、それを長い時間かけて追及できる時間は、人生の礎になると思います。一緒に笑ったり、心配してくれたりする友人を作ることも大切な人生の財産になるでしょう。

南 多恵子 准教授

健康科学部 医療福祉学科 社会福祉専攻

日本福祉大学社会福祉学部卒業、立命館大学大学院応用人間科学研究科修了。夙川学院短期大学講師、京都福祉サービス協会施設本部職員などを経て、2013年より現職。ヤングケアラーのための当事者会「ふうせんの会」事務局長。社会福祉士、精神保健福祉士、保育士。著書に『子ども家庭福祉論-子どもの平和的生存権を礎に‐』(共著)、『想いをカタチに変えるコーディネーション力』(共著)など。

この分野が学べる学部・学科

健康科学部 医療福祉学科 社会福祉専攻

支援が必要な子どもに対応できる社会福祉士、医療ソーシャルワーカー、福祉職公務員、3つの進路を柱として、あらゆる年代の人々の暮らしの幸せを支えるソーシャルワーカーを育てます。

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