京都光華女子大学 短期大学部 ライフデザイン学科 学生ブログ 京都光華女子短大ルポ ~服飾史からみた女性らしさについての考察 ライフデザイン学科2年 H.I

学生ブログ

京都光華女子短大ルポ ~服飾史からみた女性らしさについての考察 ライフデザイン学科2年 H.I

京都光華女子短大ではLDC(ライフデザインコンピテンシー)育成のためにリテラシー教育にも力を入れています。「京都光華女子短大ルポ」は本学科の学生がリテラシーを駆使して仕上げた様々なアウトプットを紹介するコーナーです。

ファッション分野の講義「世界の服飾史」履修学生によるレポートです。服飾史からみたジェンダーについての一考察、ぜひご覧ください。

********************

「歴史とファッション ~女性らしさとは」 2年 H.I

今の時代「ジェンダーレス」という言葉を知らない人はいないだろう。「ジェンダー」とは、生物学的な性別によって与えられた社会的・文化的性差を意味する言葉で、「ジェンダーレス」とはその性差をなくそうとする考え方を意味する言葉である。近年ではジェンダーレスの制服を採用する学校も増えており、男性だからズボン、女性だからスカートを履くという一般常識は覆された。

そんな自由がある時代に生まれたのだから、性別に囚われず自分らしい格好をしたいと私は考える。過去には女性がファッションにおいても社会的地位においても窮屈な思いをした時代があった。せっかく自由な格好が出来る時代に生まれたのだから、男らしさや女らしさという固定概念を捨てたファッションを楽しみたい。そういった考えを持てることが当たり前の時代になったのは、女性解放に向けて動いた人がいたからこそである。女性の社会進出の観点も踏まえて、コルセットの追放と女性がズボンを履くようになった経緯を、歴史上の或る3人の功績から追ってゆきたい。

1人目は、アメリア・ジェンクス・ブルーマーである。ブルーマーは1818年に米国ニューヨーク州、ホーマーで生まれた。31歳の時、自身の新聞で結婚法の改定や女性参政権、女性のための高等教育などについての記事を載せ、後世の女性参政権運動の見本となった。

そんな女性の自由のために動いた彼女は33歳の時に、エリザベス・ミラーが考案した女性用のズボンを新聞で取り上げた。ブルマーと呼ばれるそのスタイルは社会の激しい非難の的となる。というのも、当時は女性にズボンはあり得なかったのである。女性はウエストをきつくコルセットでしめつけ広がった長いスカートをはくものであり、バストとヒップを強調した女らしさを出すものとされていた。ブルーマーはそんな女性の健康への配慮が度外視されたコルセットをはずし男性と同じようにズボンを履くことで、社会における女性の地位の向上と婦人服の実用化を図ったのだ。それは社会的地位や長いスカートに不便を感じていた女性たちに深い感動を与えたが、社会からの非難ははげしくそれほど流行ることもないまま、ブルマー本人は1894年に76歳で没している。

当時は、ブルマーをはいて歩くとののしられ石をぶつけられたという。今では考えられない光景だ。勇気をもって着た人がいたからそのスタイルが受け継がれて、現代の女性のパンツスタイルとなっているのだろう。現代でズボンを履いて歩いても石をぶつけられないのは、彼女の勇気があったからではないだろうか。


1850年代のブルマーとショートドレスの組み合わせ
画像はWikipedia「アメリア・ジェンクス・ブルマー」より







2人目は、「脱・コルセット」で女性解放者と称されるポール・ポワレというデザイナーだ。ポール・ポワレは1879年にパリで生まれた。彼は1903年に自身のメゾンを設立し、非西洋スタイルを参考にしながら多くのドレスをデザインした。

1906年に、ウエストラインを胸の下まで下げS字型のラインを辞め自然なラインを提案し、コルセットを着けなくても着ることが出来るハイウエストのドレス「ローラ・モンテス」を発表し、コルセットを追放する。先述したようにコルセットとは女性にとってウエストを締め付け健康にも被害を及ぼした。その追放はファッション史上最も画期的な発表の一つと言われている。

ポワレもブルーマーも女性をコルセットから解放する動きに貢献したという共通点があるが、社会に受け入れられかつ脱コルセットで称されたのはポワレの方である。それは、ブルーマーがコルセットをはずしズボンを履いた時代から50年程が経ち、世の女性のコルセットを外したいという意思が強まっていたからだと考える。1914年には第一次世界大戦が起こり、女性の社会進出がますます進んだ。それに伴い仕事に適さないコルセットや長いスカートは邪魔になり消えて行った。女性も外に出て働くことで社会的にも経済的にも自由が増え、女性の服飾史は大きく発展する。この時期に女性にとってもズボンが必要になり、多様性が取れ入れられるようになったのだ。


1908年に発表されたポワレの作品イラスト
画像はフランス国立国会図書館Galliciaより







3人目のガブリエル・シャネルは、そんな第一次世界大戦期に活躍した女性だ。1883年にフランスのオーヴェルニュで生まれ、ポワレが女性をコルセットから解放したころ、ブランド「CHANEL」を設立した。わたしが女性らしい格好ではなく自分らしい格好をしたいと思ったのは彼女の影響である。

シャネルは当時の恋人エティエンヌ・バルサンの影響で乗馬に夢中になったが、当時は乗馬時の服装もロングスカートが普通であったため横すわりで騎乗したりスカートが捲れた時に足首が露出しないよう乗馬用ブーツが必要であった。こういった作法に無頓着であったシャネルは自分の体形に合わせて乗馬用のズボンを作る。まだズボンが男性用として考えられていた当時は考えられない話である。2022125日、シャネルのオートクチュールコレクションが発表されたが、ショーは馬にまたがった女性モデルの登場と共にスタートした。このコレクションでは、単に乗馬にフォーカスするのではなくシャネルのようなパワフルな女性像を表現している。このように、シャネルの行動や考えは現代に残り根付いている。もはや女性とはしおらしく守られるだけの存在ではない。男性と同じようにズボンを履き、馬に乗り、働き、自由だ、ということをシャネルのレガシーが示している。

しかし、シャネルは女性解放を主張したわけではない。快適で実用的なズボン、ジャージ素材、スーツなど従来男性のファッションとされていたものを男装としてではなく女性のファッションとして確立したことで、結果的に女性の解放に繋がっただけだ。コルセットを外しスカートではなくズボンを履く、従来の女性らしいシルエットや女性らしさという概念そのものから解放したのである。女性らしさに囚われず自分らしくいたからこそシャネルは人々の心を動かしたのだ。


1928年、ズボン姿のシャネル
画像はWikipedia「ココ・シャネル」より







以上の様に、過去に女性の解放に向けて動いた人がいるからこそ今の時代がある。その歴史を知ったからこそ、性別に囚われずに自分らしい服装を着る自由があることが素晴らしいということを知れた。

実際に私は生活の中でその素晴らしさを感じた経験がある。就職活動をしている際、私はスカートが好きでスカートが似合うと考えたからスカートのスーツを選択したが、周りにはパンツスタイルの女性も多くいた。自分らしさを見せる場で自分らしくいれる服装を着るのが当たり前になっていることを肌で感じることができた。また、今では中学生や高校生の制服で女子生徒がズボンを履いている光景を見てもなんらおかしいことはない。私自身、スカートだけでなくズボンを履くことも好きである。意図してメンズライクなコーデを組むこともある。

もし今ジェンダーが原因で着る服に悩んでいる人がいたら、女性らしいという基準で選ぶのでなく自分らしい服を選べるように背中を押したいと思う。男性だから女性だからという考えはもう古い。これからもジェンダーレスの考え方がもっと普及し、ジェンダーに縛られない選択が出来る社会を望む。


【参考文献】
gooddo『ジェンダーレスとは?意味や定義などを徹底解説』
https://gooddo.jp/magazine/gender_equality/genderless/

wikipedia『アメリア・ジェンクス・ブルーマー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/アメリア・ジェンクス・ブルーマー

・『アメリア・ブルーマーの女性解放ファッション』
https://blog.goo.ne.jp/papirow/e/3eb10852efbbebab5931b3c17be5e47e

VOGUE20世紀ファッションの草分け、ポール・ポワレが今、再び。』
https://www.vogue.co.jp/fashion/trends/2018-02-28-2

・京都服飾文化研究財団HPデジタルアーカイブズ
https://www.kci.or.jp/archives/digital_archives/1910s/KCI_155

FASHION PRESSPaul Poiret
https://www.fashion-press.net/brands/247

wikipedia『ココ・シャネル』
https://ja.wikipedia.org/wiki/ココ・シャネル

VOUGE『シャネルのショーは馬にまたがったシャルロット・カシラギで幕開け!』
https://www.vogue.co.jp/fashion/article/chanel-spring-2022-couture

先生のコメント

H.Iさん、力作の提出お疲れさまでした。「歴史とファッション」に関する自由研究レポートの題目にジェンダー論を取りあげてくださった視点、そして近代の女性解放運動に最適且つ話題の3名に焦点を当て信頼のおける参照先からの情報収集、加えてわかりやすい独自の考察。読み応えのある素晴らしいテキストでした。就職先でこれら情報収集力と分析力に更に磨きをかけていただければと思います。社会での更なるご活躍に期待しています!