t検定 名前の由来

引用:http://mat.isc.chubu.ac.jp/fpr/fpr1997/0119.html

 

南風原です。

堀さん@香川大学経済学部が以下のように書いています。 [fpr 638]

>> Zar,J.H.(1996) Biostatistical analysis. 3rd ed. Prentice-Hall.
>>
>> p94にほんの少しエピソードがありました。Gossetは自分の分布を zと言及していた。1922年から1925年の間にFisher がそれを修正 して、統計的検定の可能性を発展させるのを助けた。Gosset はその修正を t と呼んだ。
>>
>>このエピソードは次の文献の受け売りだそうです。
>>
>> Eisenhart,C.(1979) On the transition from "Student's" z to "Student's" t. Amer.Statist. 74, 48-51.

紹介していただいた Eisenhart 論文の掲載巻号頁は,Vol.33, No.1, Pp.6-10 でした。大変おもしろい論文でした。簡単に私なりの要約を書いてみます。

(1) Gosset (ペンネーム"Student") が 1908年に発表した論文は,正規母集団からの標本に基づく比 z=(標本平均−母平均)/標本標準偏差の分布を求めたもので,これは,現在tと呼ばれているものとはz=t/sqrt(n−1)という関係にある。(一種の効果量です。)

(2) Fisher は,数学的により洗練された方法でzの分布を導き,Gosset に手紙で知らせ,そこから手紙の交換が始まった (1912年)。

(3) Gosset は 1908年の別の論文で相関係数の分布について書いているが,Fisher は,さらに厳密な結果を導き,特に Gosset 自身のzの分布との関係を明らかにした(1915年)。

(4) 1922年の手紙で,Gosset は相関係数の分布より,回帰係数や偏相関係数の分布が知りたいと書いたところ,Fisher は短期間でこの問題を解き,しかもそれらが本質的に Gosset のz分布であることを明らかにした。

(5) こうした研究の過程で,Fisher はzより,それに自由度を乗じた量(現在のt)のほうが,理論的により有用であることに気付き,Gosset もそのことを理解するようになってきた。

(6) dに自由度を乗じた量の分布の表を用意する過程で,Fisher はおそらく単に計算上の慣習からxという記号を使っていたが,Gossetは,Fisher とは異なる(1908年論文以来の)方法を用いていたため,その区別のために,Fisher への手紙の中でtという記号を用い始め,1925年発表の新しい分布表でもその記号を用いた。

ということのようです。Fisher が Gosset 以上にt分布の数学的性質を明らかにし,その応用可能性の広さを発見し,普及させてにも関らず,その後も Fisher ではなく,Student の名でこの分布が呼ばれた背景には,Gosset の1908年の研究の偉大さに対する Fisher の敬意があったようです。なお,Gosset の1925年のt分布表の論文では,そのtの形は,Fisher の示唆を受けてのもの,と名言しているということです。

ちなみに,生年を単純に引くと,Fisher が独自の方法でzの分布を導いて Gosset との交流が始まった 1912年は,Fisher 22歳,Gosset 36歳ということになります。以上。