京都光華女子大学 こども教育学部 こども教育学科 ニュース 深い学びにつながる効果的な「課題の振り返り」

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教員コラム

深い学びにつながる効果的な「課題の振り返り」

前期の授業がオンライン上で進められることになり、始まった頃には不安を抱えていた人も多かったことでしょう。私の授業でも、初回目アンケートから様々な心配の声が寄せられました。

“自分の課題が間違っているかどうか、友達と相談できないから不安です。”

“オンライン授業だと、他の人との意見交換やグループワークがちゃんとできるのか心配です。”

“対面式の授業ほど講義内容がしっかり身につくのでしょうか。”

オンライン授業には大きく、リアルタイムで配信(同時型)し、教授者と学習者の間でコミュニケーションが可能な方法(双方向型)と、オンデマンドで配信(非同時型)し、メディアを利用した学習と課題を通して指導を行う方法(一方向型)とがあります。

これらの適切な使い分けやちょっとした工夫を加えることで、学習者の不安要素を排除することができますが、ここでは、オンライン授業において深い学びを可能にする一つの方法として、効果的な「課題の振り返り」を紹介したいと思います。

(1)「課題の振り返り(資料)」の共有

「道徳教育の理論と指導法(初等)」と「教育課程論(初等)」の授業では、授業内容の復習と学習者同士の意見交換を目指して、前回提出された課題を一週間後に振り返る作業を行なっています。

教員は、設定した課題に対してどの基準から選定を行うのかを決めます。そして学習者から提出されたすべての課題の中から選定基準に沿ってクラス内で共有したい課題を選びます。その際、個人が特定できないように課題提出者の学籍番号などを伏せて、また順位付けではないランダムの番号を振って、資料として使いやすいように加工を施しています。決まった数を選ぶのではなく、基準を満たしたものはすべて対象になるので、多い場合、全体の半分程度、少ない場合、5つ以下の課題が選ばれています。


課題の選定が終わったら、図1のような「課題の振り返り(資料)」を作り、学内学習支援サイトに掲載し、学習者と共有します。


(2)学習者の「課題の振り返り(メモ)」に見られる特徴

クラス内で共有する課題について、学習者は振り返りのメモを作成し、再び提出することが求められていますが、その際、メモに盛り込む内容や形式、分量などはすべて自由になっています。これは、教員に見せるためではなく、自分のための参考資料としてメモを残しておくということを期待しているからです。

提出された振り返りのメモには、学習者の個性と多様性が現れていて、教員にとっても学習者を理解する上でとても貴重な資料となっています。メモの書き方を見ると、参考になった一つの課題を選んで自分の意見を見直して、もう一度まとまった文章で書き直した人もいますし、短いメモ程度で簡潔にまとめた人もいますが、その他にも、図2に挙げたような「振り返り」のタイプがありました。

 

(3)「課題の振り返り」のポジティブな効果

 学習者にとって「課題の振り返り」をどのように活用しているのかは色々ですが、そこから教員が提示した内容以上のことを感じて、学んでいることは確かです。

① 物事を考える広い視野を持つことにつながっている。

学習者は、自分にはまったくなかった視点や、自分とは反対の立場からの主張、自分と同じ理由から別の結論に導いている他者の意見から刺激をもらっていて、一つの問題を多角的な視点から捉えることの重要性に気づくことになります。

 

② 自分の意見を補強し、もっと整理されたものとして磨き上げるきっかけになっている。

学習者は、単に他者の異なる意見を読んで納得しているのではなく、自分の考えと比べて、また他者の挙げた理由は妥当なものであるかを吟味して、自分の意見を見直すことに努めています。

 

③ 分かりやすく説得力のある意見提示に役立つノウハウを学んでいる。

学習者は、選ばれた複数の課題を読んでいるうちに、学習内容そのものに限らないところにも気づいていました。読みやすい文章の条件だったり、説得力のある展開の仕方だったり、他者に自分の意見を効果的に伝える方法についても、今後参考になる情報としてきちんとおさえていました。

 

他にも、「自分もクラス内で共有する振り返り資料に選ばれるようにもっと頑張ろうと思った」という意見や、「選ばれてとても嬉しく、丁寧に課題に取り組んで良かったと思った」という意見も見られ、学習者のモチベーションの維持や向上にも「課題の振り返り」は有効に機能していることがわかります。

オンライン授業を実施するにあたり、さまざまな課題が指摘されていますが、今回紹介した効果的な「課題の振り返り」の事例は、個人ワークを軸とした学習者同士の相互学習を行うことで、学習内容の定着と深化につなげていく一つのヒントになるのではないでしょうか。

               (学校教育コース 全京和)

図1.「課題の振り返り(資料)」のフォーマット (クリックで拡大)

図2.「課題の振り返り(メモ)」のタイプ (クリックで拡大)