京都光華女子大学 こども教育学部 こども教育学科 ニュース 教員コラム もはや私の人生に必要不可欠な美容師さんの話

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教員コラム もはや私の人生に必要不可欠な美容師さんの話

 私には、20年近く通い、施術していただいている美容師さんがいます。今日はこの美容師さんについて紹介します。

 まず、この美容師さんは、本当にあいそがありません。笑顔はこの20年間で数えるほどしか見たことがありません。話す言葉は「いらっしゃいませ」「流します」「お疲れさまでございました」「ありがとうございました」くらいです。よくある世間話などは一切なく、施術中は基本的に無言です。

 また、かなりガサツです。前髪の施術の際には、本を読んでいてもお構いなく前髪をざらっと下ろされ、そんな時は視界が突然髪の毛になります。私はくせ毛なので、縮毛矯正パーマを毎回かけてもらっているのですが、パーマ液がたらっと垂れてきたり、はねて顔に着くこともままあります。

 これらのことは、美容師としてはかなり致命的とも思えます。

 ところが、これらの一見大きなデメリットと思えることが、私には大変ありがたいのです。

 まず、施術中に一切話しかけられないおかげで、集中して本を読むことができます。縮毛矯正パーマには全部で3時間以上かかりますが、その3時間で、雑誌なら4冊以上、難しい学術書でもすいすい読み進めることができます。「人としゃべる」という行為は比較的頭を使う行為でお互いに気を使いますが、全くしゃべらなくてよいおかげで、とてもリラックスでき、有意義なひとときを大変快適に過ごすことができます。

 また、こちらにお構いなく施術をしてもらえるおかげで、毎回、前髪がすっと下に降りる、とても自然で素敵な仕上がりのヘアスタイルにしてもらえます。普通の美容師さんでは、客に気を使って前髪を横に流してパーマ液をつけてしまうために、仕上がり直後から前髪が横分けになってしまいます。ところがこの美容師さんにかかると、(地毛が伸び始めるまでの数日だけでも)「前髪が流れるストレート」を楽しむことができます。

 さて、私たち教員は、子どもたちの悪いところにばかり目が行きがちです。しかし、悪いところでその子を判断してしまうと、「産湯と一緒に赤子を流す」ことになりかねません。もしも、この美容師さんが、「あいそがない」などの短所を基に評価され解雇されるなどしていれば、私が享受している素晴らしいヘアスタイルと時間は全く失われてしまったことでしょう。

私たち教員はついつい、従順で有能な子どもを求めてしまいがちです。しかし自然界では、形質が均質な集団は遅かれ早かれ絶滅することが知られています。悪いところも含めて子どもたちの個性を認め、その上でその子の良さを引き出せるような教育を、目指したいものです。

無愛想でガサツな美容師さんですが、そのおかげで毎朝たった5秒のブラッシングだけでヘアスタイルがきまるのは、本当に幸せなことです。もはや、私の人生にはこの美容師さんが無くてはならない人といえます。美容業界の熾烈な競争の中で、20年以上も経営が成り立っていることから、この美容師さんの良さを分かる人が世の中には意外とたくさんいらっしゃるということでしょう。ぜひ健康に気をつけて、末永く、私の髪を素敵に仕上げていただけることを願っています。

           (学校教育コース 中井咲織)