2. ハウルの動く城(前編)
夢と同じように、昔物語・ファンタジーも人のこころを導いてくれる。私はカウンセリングを続けて行く過程の中で、物語・ファンタジーのようなこころの世界が展開されることを経験してきた。あるいは、物語・ファンタジーから知ることが出来た知恵がこころの理解に役立つことを学んで来た。
特に宮崎駿作品のファンタジーは「こころ」と「たましい」のドラマに満ちていて、私は授業で学生と楽しみながら研究している。
深層心理学に「父の娘」という概念がある。父親の期待をになって長男のように育った娘を云う。「ハウルの動く城」のソフィーは「父の娘」である。
ソフィーは亡き父の遺した帽子屋を引き継ぎ堅実、実直に、帽子の製造販売にいそしんでいる。母親と妹は、ソフィーとは対照的に、明るく派手で、「女性を生きる」ことを楽しんでいる。
だからといって、ソフィーが若い女性として異性を引きつける魅力に恵まれていないのではない。ソフィーの自己イメージが悪いだけなのである。
ソフィーが外出して町を歩くと若い兵隊たちが気を引こうと話しかける。困ったソフィーを、町でうわさの魔法使いハウルが魔法を使って助ける。「若い女の心(臓)を食べる」とうわさされるほどにハウルはイケメンなのだ。そんなハウルが助けたくなるほどソフィーは本当は美しいのだ。ハウルは夢のような空中歩行でソフィーを送ってくれたのだった。ソフィーの女性としての他者評価イメージは決して低くないのである。自己評価イメージと他者評価イメージの差が大きくなればなるほど、その人の「問題」は大きい。心の問題が大きくなったとき人は孤独に陥る。孤独というこころの隙間には、悪が入り込む。「孤独は悪に門戸を開く」のである。それを「ま(魔)がさ(差)す」という。
その後のソフィーには、文字通り魔が差すことが連続するのだった。
ハウルを襲う「荒地の魔女」は、ハウルの心(臓)をねらっている。若い男の心(臓)に取り憑かれた荒地の魔女は道を誤って荒地に追放されている非行魔女である。荒地の魔女の嫉妬を買ったソフィーは呪いをかけられて90歳の老婆に変えられてしまう。
ソフィーがかけられた呪いはソフィーの自己評価イメージと連動している。年齢との較差がはなはだしく開き、自己イメージが悪化した状態では90歳の姿に変身する呪いなのである。逆に、年相応の乙女心(恋心)が活性化しているとき、ソフィーの容姿容貌も若返っているのだ。
藪添 隆一(2018年1月9日)