宮崎駿の映画「となりのトトロ」の一場面を想い出す。
迷子になったメイの行方が知れないままに日が暮れようとしている。村中の人たちが総出で捜索してくれているのにみつからない。ため池に浮いている子供のサンダルがメイのものではないことがわかって、ひとまず安堵はしたが、メイがいくえ不明なことには変わりはない。そこでサツキは急に思いついた。塚(つか)森(もり)に祈ろうと。トトロに助けを求めようと。
妹メイがトトロと出会ったと大騒ぎした後で、お父さんと「メイがお世話になりました。これからもよろしくお願いします」と三人であいさつした楠(くすのき)の大木を祀(まつ)った祠(ほこら)の森に走って行ってサツキは祈った。「あいさつ」は大自然に対する祈りである。
「お願い、トトロのところに通して」とサツキが祈ると突然、目の前の茂みが開いてトンネルのような獣道(けものみち)が現れる。腰をかがめて獣道を突き進むと大きな穴に落ちた。
気が付けば、落下したのは、やわらかいトトロの腹の上だった。
「メイが迷子になって、探したけどみつからないの。お願いメイをさがして。いまごろ、きっとどこかで泣いているわ・・・どうしたらいいか判らないの」と、顔をおおって泣き出してしまう。
この次のシーンが秀逸である。
泣いているサツキの脇にトトロの手がゆっくりとのぼってきて、肩に触れる。サツキ、顔を覆っていた手をおろす。トトロの手、長い鋭いケモノの爪が、やわらかい少女の二の腕を、やさしくゆっくりと包む。トトロをみつめるサツキ。ニカーッと歯をむき意味不明なトトロの笑顔。サツキを胸元に抱え込んで起き直り、手の中のサツキをまじまじと見るトトロ。
トトロは突然、吠える。「ブォロロロロ」天地を震撼させる雄叫びである。
藪添隆一(2018年6月12日)