日本の臨床心理学の第一人者である河合隼雄さんは、著書の中で、不登校の子どもをもつ親の発言を例にあげています。「科学が進歩してボタン一つで人間が月まで行ける時代に、子どもを学校に行かせるボタンはないのですか。」これは、観察者(親)と対象(子ども)を切り離した考え方ではないでしょうか。この親は、観察者の視点から解決策を求めています。これでは、目の前にいる自分の子どもさんが登校できる日は遠いのです。目の前にいる子どもに関わり、心を通わせる必要があります。関わっていく過程で、子どもと親との間に相互作用が生まれ、心の変化が起こります。
心の変化を生むために、心理援助を行うセラピストには、クライエント(相談者)を、観察者の立場から操作するのではなく、お互いに影響しあえる関係を構築することが望まれます。そのための姿勢は、気遣いや心がけだけでできるものではなく、長期にわたる訓練によって修得されるものです。これが、これまで心理援助職に求められてきた役割です。
さらに、近年医療や福祉の領域での心理援助職のニーズ拡大に伴い、これまで以上に広い知識が必要となってきました。そこで誕生したのが公認心理師なのです。