2018.12.03 教員コラム

「崖の上のポニョ」から考える ーその2

その1からの続き

ファンタジー「崖の上のポニョ」は、ポニョが深海から浮上してくるところから始まる。ポニョの棲家は深い海の底にある。海底からクラゲに乗って浮上し、初めて海面にやってきて、海上をながめると崖の上にある黄色い一軒家が目に入る。

その後でポニョは底引き網漁の船の網に巻き込まれる。産業廃棄物もろともに魚たちをからめとる網の中でポニョは空き瓶にはまり込み、空き瓶もろともに網目から脱出できたのだったが、瓶からは出ることができないでいるところを宗介に助けられたのだった。

崖の上の一軒家に住んでいる宗介(5)は、朝早くからがけ下の磯に降りて来て遊んでいる。そこで空き瓶に頭から突っ込んで身動きできなくなった金魚を助ける。瓶を石で割って助けたときに宗助は指を切る。助けられた金魚は素早く宗助の指をなめて治してくれる。この金魚の顔は人の顔で舌でペロリとなめた瞬間に傷が癒えたのだった。

ポニョは、魔法使いのフジモトと魔女グランマンマーレとの間に生まれた金魚姫である。フジモトは元(もと)は人間だった。彼は人間の世界を呪って深海に棲む。  

ポニョが巻き込まれた底引き網は海の中を根こそぎ破壊する。魚といっしょに巻き込まれている産業廃棄物は生産社会のゴミで自然環境を汚している。近代、現代の人間社会の「進歩」は破壊と汚染の歴史である。

フジモトは海底に棲み、魔法の力で「生命の水」を蓄積している。地球の「時」を原初に戻して世界をリセットしようと企んでいるのだ。

人間の前進が自然を破壊する問題。「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」のテーマでもあった問題がここにも提示されている。フジモトは矛盾した策士(さくし)である。人間社会の「進歩」を止めて「退行」させようと画策(かくさく)しているが、その手段はやはり「科学」なのだ。科学の生み出す悪と闘うために科学することは矛盾なのではないだろうか。

また、フジモトは娘たち人面金魚たちを愛している。長女ブリュンヒルデ(ポニョのもともとの名前。「ポニョ」は宗介がつけた呼び名。)が反抗期で家出し、海底から海上へ逃げて行くのを陸上にまで追ってきて海底に連れ戻す。我が子の成長(前進)を願いながら連れ戻して管理しようとする。

 

藪添 隆一(2018年12月3日)

 

その3へ続く

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