あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。
バウムテストという心理テストがあります。描画テストの一つで、「実のなる木を一本描いてください」というものです。実際の木の知識を問うものでなく、その人の心の中にある木を描いてもらい、そこからその人の心のイメージを理解するものです。
発達やパーソナリティといった個人の違いが表現されるだけでなく、文化の違いもわかります。日本で描かれる木は「リンゴの木」がポピュラーです。一方インドネシアのバリで描かれた木は、「ヤシの木」が多く、しかも、日本で描かれるヤシの木と異なり、垂れ下っている葉とともに、まっすぐに延びる葉の新芽が描かれています。
その絵を見せてもらった時、日本との違いに驚き、感激したことがあります。バリの人々にとってヤシは成長するイメージなのです。
日本で描かれるヤシの木は幹も傾き葉は垂れ下るばかりで成長するまっすぐな新芽が描かれていません。むしろ成長するイメージとは全く逆のイメージです。
先日、実際のヤシの木を見る機会がありました。見事に中心にまっすぐに延びる葉の新芽が出ていました!
バウムテストは心の中のイメージの木です。実際の木とは異なったイメージを持つ木を描いてもよいのです。日本であえて南国のヤシを描く場合、それは描く人にとって特別な意味を持っているのだと思います。
日本人のリンゴの木のイメージは、まっすぐに延びるというより、横に広がった枝に実をつけたリンゴの木です。しかも、実際のリンゴの木というよりは、絵本などに描かれているイメージのリンゴの木を思いつくのではないでしょうか。私たちはパターン化したリンゴの木を心の中に持っているのです。その点で、身近にある実際の木を心に取り入れて描くバリの人々の絵とは違うものです。この違いは現実とイメージとの関係の在り方の違いでもあります。
心の中にあるイメージの木をその人にとっての大切なイメージとして理解しつつ、バリの人々のように現実の木とのつながりも忘れないようにしたいと思います。
千野美和子(2019年1月5日)