京都光華女子大学 健康科学部 心理学科 ニュース シャーロック・ホームズの思い出

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教員コラム

シャーロック・ホームズの思い出

 わたしが読書の楽しさを知ったのは中学生の頃でした。たぶん後にも先にも、あの頃ほど純粋に楽しく本を読んだことはなかったと思います。推理小説を中心に夜12時過ぎまでの12時間、ベッドに入ってうつ伏せで読んでいました。そのせいで近視が急速に進んでしまったのですが、その代わりに文字情報から情景をイメージする能力が鍛えられたのだと自分を納得させています。お気に入りはシャーロック・ホームズ全集で、ロンドンの霧のかかった風景やベーカー街221Bを想像しながら、たくさんの憧れをわたしの心に植え付けてくました。それはわたしにとって秘密の記号だったのかもしれません。後に大学で西洋史を専攻し、19世紀後半から20世紀初頭のイギリスを卒論のテーマにしたこと、大学院から心理学を学び直したことなど、今になって思えば、かつて心に蒔かれた憧れが期せずして人生の選択に影響を与えてきたように感じます。

 刑事コロンボシリーズを読み終え、江戸川乱歩シリーズに入ったあたりで、図書室の先生(司書教諭?)から改まった様子で、「そういう本もいいけど、文学作品のようなためになる本をたくさん読みなさい」と言われたことが強い印象となって残っています。先生はわたしの関心を広げて将来に役に立つアドバイスをくださろうとした、ということは自分でもわかるのですが、その時は言葉で言い表せない悔しさを感じました。昼休みに図書室で本を読むより外で遊びたくもなっていたため、また深夜ラジオが友だちの間で流行りだしたこともあり、その後はあまり図書室に行かなくなってしまいましたが、この時の体験もまた、心理学を生業とするようになった現在につながっていると思います。

 

長田陽一(2019年3月8日)