京都光華女子大学 健康科学部 心理学科 ニュース 「若者を生きる」とは  【後編】

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教員コラム

「若者を生きる」とは  【後編】

【前編】の続きです 

 ビートルズは、私が高校1年の時に来日して大騒ぎだったことを覚えている。私の居た全寮制東京都立秋川高校は1学年240人。私は創設後二期生の1年生だったから、ビートルズの武道館ライブの当時は、2学年480人で全員の寮生活だった。その中の、かなり大勢が無断外出、外泊禁止の規則を破って脱走し、武道館へ行ったのだった。深夜に彼らは戻って来たが、8人で1室の私の部屋だけでも4人が脱走組だったから相当数の生徒たちが生ビートルズを見てきたわけだった。実は私にも誘いがあったのに、お堅い規範意識・・・いや、若年寄りの私は断ってしまったのだった。ビートルズがバッハ、モーツァルト、ベートーベンに匹敵する歴史的音楽の創造者たちだったことは次第にわかってきた。だからというわけではないが、規範破りの「バカもの集団」に入らなかったことに若干の悔いが残っている。

 規範は社会を成り立たせる要素である。オトナは若者に規範を守ることを期待する。規範破りは「不良」とみなされる。しかし、規範破り(非行)は旧来の固定した体制を変革する革命的要素を秘めている。

 「エデンの東」はエリア・カザン監督(ジョン・スタインベック原作)ジェームズ・ディーン、1955年アメリカ映画である。厳格な父、品行方正な長男、繊細で父の心配の種の次男。父子家庭で、母親は他界していると聞かされていたが、次男キャル(ジェームズ・ディーン)は母が隣町でいかがわしい商売をしている女であることを知る。規範意識が昂じると偽善が生じる。偽善を見抜く悪魔のような女が母であることを知ったキャルは兄にそのことを教え、絶望した兄は自暴自棄となり兵役志願して戦死する。罪悪感と疎外感に陥るキャルの姿は、規範から疎外された若者の内界を描き出して痛切で美しい。名優ジェームズ・ディーンは、アカデミー賞主演男優賞を受賞し、一躍大スターとなる。「理由なき反抗」「ジャイアンツ」と二つの大作の主役を務め、その直後に自動車事故で亡くなる。わずか5年間の活躍だったという。典型的若者を体現した天才がオトナになろうとする節目で死亡することは、「意味ある偶然」(コンステレーション)かもしれない。

 自分が何者かを探している学生は、若者を生きている。自分の「かっこ悪さ」にうんざりしながら、その姿をカッコよさに変換したヒーローたちに拍手してはどうだろうか。

 

藪添隆一 (2019年5月7日)