京都光華女子大学 健康科学部 心理学科 ニュース マインドフルネスへの道~こころ編

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教員コラム

マインドフルネスへの道~こころ編

私の研究テーマはマインドフルネス瞑想で、日々実践しています。
なので、これから何回かに分けて、マインドフルネス瞑想の面白さや効果をお伝えしたいと思います。

1回目テーマ:心の性質 ~さまよう心を定める方法~

私たちの頭の中では、いつも、休みなく、様々な思考や感情が動き回っています。今、この文章を目で追いかけながらも、頭のどこかでは「今日のお昼ご飯のトンカツは美味しかったなあ。」とか「あっ、メール送るの忘れてた・・・」など、目の前とは別のこと、過去や未来のことをあれこれ考えているかもしれません。

心は、実に「おしゃべり」で「やんちゃ」です。望んでもいないのに、勝手にあちこち活発に動き回り、いたずらしてきます。そんな心の性質は、「モンキー・マインド」と呼ばれます。モンキー(サル)が予想できないほど素早い動きで木から木へと飛び回るように、心も、私たちが自分でコントロールできないほど素早く動き回り、あちこちへさまよいます。

こんな心の働きの一つの例として、「空想」があります。

街を歩いていて、ある音楽が聞こえてきました。それは中学生の頃、音楽の授業で歌ったことがある曲でした。そうすると、ある音楽の授業を思い出し、みんなが歌っている中で、特に熱心に、きれいな声で歌っている同級生の姿が頭の中によみがえりました。すると、次にはその同級生と遠足でしゃべりながら歩いた光景が出てきました。

このように、何かの情報に刺激されたり、刺激されなくても唐突に思い浮かんだりすることがあります。特に、スマートフォンなどで多くの情報に簡単にアクセスできる現代では、常に心が刺激され、一層忙しく心が動き回ることになるのです。

嫌なことがあると、もはや解決したことでも、その後長い間、悩み苦しむことがよくあります。ネガティブな記憶や感情ほど、心はこちらの意思にお構いなしに走り回るのです。心は、外からの情報や内側の記憶を燃料にして動きますが、特に私たちが好まない、不快な記憶や感情をエサにすると、暴走するのです。そのため、私たちは、心がこれだけ好き勝手な行動をするものだと理解した上で、ネガティブな空想に陥らないように対応することが大切です。

好きなこと、心地よいこと、快適なことで気晴らしするのも良いですが、今の自分、目の前の事柄へ注意を向けて、空想から脱出することが大切です。このような「今の自分の状態に注意を向けて、観察すること」を心理学では「マインドフルネス」と呼ばれています。このマインドフルネスの力をトレーニングすることで、つらい気持ちにとらわれずに、むしろ回復することもできるため、様々な心理ケアで取り入れられています。

心はさまよいやすく、思うようにならないものです。馬車のように、自分の心にたずなを取り付けて完全にコントロールすることはできませんが、心がこれだけ「やんちゃ」に動くものだと知っておくだけでも、ずいぶん気持ちは楽になります。コントロールできないこと、つらい気持ちに振り回されることは、あなたが悪いわけではないのです。心の性質です。そのことをしっかりと理解した上で、自分の心が特に暴れる燃料が何かをわかると、よりよいですね。

2021年9月21日 心理学科 谷本拓郎