京セラ美術館で開催中の展覧会(2025年9月13日~12月7日)、『民藝誕生100年—京都が紡いだ日常の美』に行ってきました。大正から明治にかけての時代、思想家の柳宗悦、陶芸家の河合寛次郎、濱田庄司らによって提唱された民藝運動と呼ばれる生活文化運動の歴史を、様々な作家による作品の展示とともにたどる展覧会でした。この運動は、民衆の暮らしのなかから生まれた美の世界の価値を見出し、世に広めようとするものです。
京都の五条坂にある『河井寛次郎記念館』(河井寬次郎記念館 公式ホームページ)には、はるか昔、学生時代、友達に誘われて訪れました。河井寛次郎が住居兼仕事場とした家がそのまま記念館として残されていて、圧倒されました。まず家そのものが作品というか、芸術だと感じるような、どこか緊張感があると同時にやわらかくくつろぐことのできる空間で、お皿や花瓶などの陶芸品だけではなく、椅子など多くの生活用品が河井の作品で、美しいと同時に使いやすく、心地よい。これはすごい人がいたものだ、と感動しました。
今回の展覧会では、その時の記憶がよみがえり、調子に乗ってミュージアムショップで買い物をしてしまいました。京都出身で、今は島根で活動されている石飛勲さんという作家さんの片口(写真)。なんとなくのたたずまいというか、美しさに惹かれて購入したのですが、めちゃくちゃ使いやすいです。この段落以下数行、お酒を飲まない方、飲めない方、すみません、読み飛ばしてください。これまで日本酒は瓶からコップかお猪口に直接注いで飲んでいて、なんの不都合があろうかと考えておりました。ところが、1合分くらいを片口に注ぎ、そこからお猪口に注いでちびちびやってみましたら、全然味が違う。ような気がする。いや、実際違う。使うたび、愛着もわいてくるし、生活が豊かになった気分。これが民藝か、と昨日も気持ちよく酔ったのでした。

なんの話か分からなくなりましたが、職人さんの手仕事による日用品は、決して高価なものばかりではなく、私が購入した片口も、うちの高校生の子どもに渡しているお小遣い1か月分(たぶん相場より安め)くらいで買えるものでした。ありがたい。こういう魂の入ったモノが少しでも生活の場にあることで、生活そのものを大切にできる気がします。結局のところ、何気ない日常生活を大切にし、そこに豊かさや美しさを日々感じ取っていくことが最も重要なことかと思います。それは、私が専門とする心理療法が目標とするところにも通じているかも、などと考えています。
京都光華女子大学 健康科学部 心理学科
教授 今西 徹
