京都光華女子大学 健康科学部 心理学科 ニュース 新しい世界との出会い―「教え子」との交流から―

ニュース

教員コラム

新しい世界との出会い―「教え子」との交流から―

新入生のみなさん。ようこそ心理学科へ。
2年以上の学生のみなさんも、また新たな気持ちで学んでいきましょう!

昨年の秋のことです。九州の中学校の教員だと名乗る男性から「秋の京都に修学旅行で来ていますが先生はお元気ですか?」と大学に電話がありました。最初は誰かを思い出せなかったのですが、彼の珍しい名字には何となく記憶がありました。詳しく聞いてみると私の最初に勤務した大学の「教育心理学」「心理学実験・実習」の元受講生だということでした。当時、私は勤務し始めて2-3年目の頃で、心理学の基礎理論の講義の他、実習としては「箱庭」を取り入れていました。彼らは何事にもとても熱心で意欲的でした。

この電話の半年後、実に30年ぶりに、彼と彼の友人で同じく中学校教員である元受講生にお目にかかりました。彼は、大学卒業後、一旦は教材を扱う企業に就職したものの、自分のめざす方向とは何かが違うと感じて、仕事をやめ、教員採用試験を受けたとのことでした。もう一人も教員採用試験では浪人を経験したと言いながら、今中学校の先生であることにとても生きがいを感じていると話しました。

彼らは昔の思い出の中で「箱庭」には「こういう世界もあるのか」ととても新鮮に思ったとのことで、講義の内容は覚えていないけれど「箱庭」はよく覚えているとのことでした。「箱庭」は、私にとって河合隼雄先生から教えてもらった「心理療法の世界」を知る手がかりでもあり、その実際の体験を通して少しでも「心理療法の面白さ」を伝えられたらと思って実習として取り入れていました。昔の私は、はたして学生たちも私と同じように面白いと感じているのだろうかとあまり自信がありませんでしたが、その頃の学生の思い出に「箱庭」の体験が残っているということがとても嬉しかったです。

人と人との出会いは、とても不思議な巡り合わせでできています。元学生は私が届けたいと思っていた「心理療法の世界」を「新鮮」と受けとめてくれて、何かしら新しい世界に開かれていくのを感じ、授業の中で「これまで体験したことのない新しい世界との出会い」が起こるという体験をしたのでしょう。私自身このような元学生との再会で昔の「箱庭」体験が鮮やかに蘇ってきました。学生の「箱庭」に私自身が体験した心揺さぶられた思い出です。

教育は、学生<受取り手>に「世界との新しい出会い」をもたらしてくれるものです。そして、教師<伝え手>が自分の教師(先達)から受け継いだ贈り物を、学生<受取り手>に伝え、学生がしっかり受け取ってくれた時、教師<伝え手>は自ら経験した「世界との出会い」を学生<受取り手>によって再度開かれるとも言えるのではないでしょうか。

人と人を結びつける不思議な繋がり=「縁」。
大学という場は様々な「縁」を結ぶ場です。
みなさんも様々な出会いを体験できる場を十分活かしてください。
私たち教員もみなさんとの縁が繋がるようお待ちしています。

徳田 仁子(2016年4月11日)

中央:「河合隼雄と箱庭療法」(日本箱庭療法学会編集委員会編,2009)/右:「箱庭療法入門」(河合隼雄編 ,1969)