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教員コラム

映画『ズートピア』を観て

先日小学3年生の娘とディズニー映画の『ズートピア』を観に行きました。娘に感想を聞くと、複雑な表情を浮かべていて、こんなふうだったとは簡単には言い表しにくいようでした。なんだか首をかしげながら、面白かった、とだけ言いました。たぶん、面白かったのだろうと思います。実際、観ている間はお話に引き込まれているようすでした。わかりやすく、すっきり面白い、というものだけがいい映画ではないでしょうし、複雑ななかにも何か伝わるものがあったのかな、と思いました。

『ズートピア』の舞台は動物が人間と同じような社会をつくっている世界です。過去の野生時代には草食動物を肉食動物が襲って食べる弱肉強食の世界だったけれども、そのような野蛮な時代は過ぎ去り、今は皆がともに手をとりあって生きていける時代になった。でも、それは大変なことで、現実には「動物種差別」があり、偏見があり、草食と肉食の間には越えられないかべがあって、そうしたひずみが大きな事件につながって・・、というふうにお話は展開していきます。

最初は、人種やルーツの異なる多様な人々が一つの社会をつくってきたアメリカらしいテーマのお話かと思ったのですが、よく考えるとこれは現代においては全世界的な問題となっていることかもしれません。文化や宗教といった価値観、世界観が根本的に異なる人どうし、たがいの距離が近くなり、なんらかの関係をもつことが避けられない世の中になってきました。多様な人々が協力し合い、共存する。それは、人の社会のあり方としては理想的とも思える一方で、実際にはとても大変なことでしょう。映画はその難しさをうまく描き出しているように思いました。

カウンセリングや心理療法では、クライエントのお話をていねいに聴いて理解するということが基本になりますが、実際にやってみると、育った環境や性格が自分とは異なる人のことをわかるというのは大変なことだと実感されます。自分自身の価値観や判断基準をわきにおいて、相手の価値観や判断基準を理解し、その視点からいろいろな物事を見直してみるというのが、非常に難しいのです。

同じ文化を共有して同じ社会に住んでいる日本人どうしであってもそうなのですから、異なる文化圏どうしの人が本当の意味でわかりあうということは、もしかしたら不可能かもしれないとも思えます。映画で描かれていたように、権力闘争や利害がからむと、よりいっそう問題はこじれることになるでしょう。でも、たとえわかりあえなくとも、利害がぶつかりあうとしても、なんとか一緒にやっていかなければいけない。わからないなりに、わからないまま、相手とその考えを尊重して交渉をつづける。これは大変なことだけれども、これからの世界で生きていくうえで必要なことだろうと思います。

今西 徹(2016年6月15日)