2018.09.12 学生の活動

訪問看護のボランティアに参加して~学生②

学生の思いがたくさん詰まった感想記②です。 

 先日脊髄小脳変性症の方(以後Oさん)の所に、コミュニケーション機器の導入をサポートするためにボランティアとして訪問しました。

 まずは訪問する前にOさんの情報を事前に聞きました。それは聞いているだけで胸を締め付けられるようなお話でした。Oさんは生きる気力を持てず、死にたい、と病気により出にくい言葉で周囲の人に伝えておられたそうです。私はそんなOさんに何ができるのか、悩みました。

 ボランティア当日ドキドキしながらお宅へ伺いました。Oさんはベッドにおられました。事前情報で聞いていた痙性麻痺が強く体の拘縮が印象的でした。体は痩せ、クッションによって体が支えられていました。

 まずは挨拶から始めます。「初めまして、こんにちは。京都光華女子大学から来ました、Hです。よろしくお願いします。」Oさんはこちらを見ています。目は合わず、発話はありません。にこりともしないのは麻痺のせいなのか、私たちの訪問を快く思っていないのか、わかりませんでした。しかし、ここでめげてはいけません。

 持って行ったやわらか和菓子を食べていただきました。そして、私はお菓子の感想を聞き、他愛もない会話をします。発話はないので、首の振りで意思表示できるような質問をします。〇〇はお好きですか?答えてくれました。あ、答えてくれはった、よかった。この繰り返しです。会話は私達からのアプローチで成り立ちます。

 会話が進んだところで、今回1番のメインだった機器の練習を始めました。機材は揃っています。しかし、全然使われておらずほぼ新品です。違う部屋の隅に置かれていました。導入してまだ数ヶ月、麻痺も拘縮も複視も強いということでスムーズな導入は厳しいな、と思ったのが正直な感想です。ましてや、Oさんは導入を拒んでおられたので無理強いすることに気が引けました。しかし、Oさんは病気の進行により、伝えたい思いや気持ちを言葉では十分伝えることが出来ません。私は少しでも今の伝えたいことがあるのに伝えられない、汲み取ってもらえない、そんな状況を少しでも良くしたいと思いました。

 Oさんにまずは機器を使ってもらいます。なかなか上手に使いこなせません。何が壁となってOさんが使えないか考えます。画面が見にくいのか、スキャンの速さはどうか、Oさんに質問します。問題が見つかりました。スキャンの速さが速く使えなかったようです。すぐに設定を変えました。色も見にくいようだったので、一緒に画面の色も変えました。

 設定を変えて使っていただきました。スキャンの速さはどうか聞いてみたところ、ちょうど良くなったと言っていただきました。私はその言葉を聞いただけで、今日来たかいがあったと嬉しくなりました。練習に入る前に目が痛いと訴えられたので、その日の練習は終わりです。私たちは帰ることにしました。

 おじゃましました、また来ます、と挨拶をし玄関を出ました。一緒に行っていた看護師のNさんが、こんなにもやる気のある姿は見たことないとおっしゃいました。今日は私たちが来ることを楽しみにしていることも聞き、笑わなかったのは私たちの訪問を快く思っていないわけじゃないこともわかりました。次の目標はOさんの気持ちを引き出すこと、機器を使いやすく工夫することを挙げ帰りました。

 次の訪問も、他愛もない会話から始めます。今回は変化がありました。反応がしっかり帰ってきて、楽しい話の時ににっこりされました。顔は麻痺の影響なのか少し引きつっているように見えましたが、笑っておられるのだと思いました。一つめの目標は達成出来ました。ほんの少しだけですが、声を出して返事もしてくださいました。場の空気が和んだところで、機器の練習です。今回は、機器のボタンを工夫しました。前回ボタンを押しにくそうにしておられたので、持ち手を改良しました。そうしたら、Oさんはかなり使いやすかったのか、前回に比べスムーズに機器を使っておられました。看護師さんに勧められ私たちに質問を投げかけてくれました。Oさんから会話が始まり、笑いが生まれました。

 今までだとOさんに対するアプローチばかりで、Oさん発の会話、ましてや雑談は介助の中ではあまりなかったそうです。今回私たちが行くことで、そんな時間が生まれたことに行ってよかったと思いました。AAC(拡大代替コミュニケーション)はOさんの気持ちや要望をより詳しく伝えることが出来ます。自己表現の手助けをさらに手助けする私は、他にどのような事ができるか考えさせられました。

 機器の練習に疲れてしまったOさんに挨拶をして家をあとにします。看護師さんは私たちに、今日のOさんは2年分笑っていたとおっしゃいました。あぁそんなに今日はOさんの気持ちを引き出せたのか、と思ったと同時に私たちが普段笑う量に比べたらとても少ないのに、その笑いが2年分に達することに驚いたと同時に少し悲しくなりました。Oさんには話す相手がおらず、外の世界との繋がりも希薄でした。もっとOさんに笑っていただきたい、他愛のない会話でもいいから自分を表現してほしいと思いました。そこで私は、次回の訪問でOさんとの繋がりを終わりにするのではなく、Oさんに手紙を書こうと決めました。

 最後の訪問です。1回目と2回目の訪問は、もう1人同級生がいましたが、今回は私一人です。元気よく挨拶をし、お部屋へ入りました。Oさんは1.2回目とは異なり、眠たそうです。うつらうつらしておられ、眠い時に出る不随意運動も見られました。今までは私たちが行くと起きておられたので、声をかけることを躊躇してしまいました。しかし、看護師さんはこれが普通だとおっしゃいました。そうです、私たちが来ることを楽しみにしておられたOさんは頑張って起きてくれていたそうです。学生の身の私でも来てくれることを喜んでくれる方がいることに嬉しく思いました。

 起こしてもよい、ということだったので挨拶をしてOさんに起きていただきました。今日もOさんとの会話から始めます。甲子園を見ておられたので、甲子園について話します。Oさんは野球が好きと教えてくれました。その時、声と首を使い私の問いかけに答えてくれます。あぁ会話が成り立っている、今まで以上にそう感じました。

 夏休み直前だったこともあり、私は自身の夏休みの予定を話ました。祖父母の家が天橋立の近くにあります。天橋立に行ったことがあるか聞くと、動かしにくい手を使い7と表してくれました。7歳の時に言ったのですね、その問に笑顔で頷きます。私はその話を聞き、お手紙に天橋立のポストカードを入れ送ることに決めました。送りますね、と言った時のOさんの笑顔は忘れられません。とても柔らかく初めてお会いした時とは比べ物にならないくらい明るい印象を受けました。

 機器の練習は定型文を使って意思を伝える、ということをしました。機器を使って、足のマッサージをしてほしい、ということが伝えることが出来ました。3回目にして意思がきちんと伝えることができたことに、私が行った導入のサポートが出来たと思いました。また来ること、手紙を書くことを約束し全3回の訪問を終えました。

 後日、看護師さんからOさんが新しい意思伝達装置を欲しいと言われたこと、普通のご飯を食べたいと言われたことを教えていただきました。Oさんに変化が生まれたこと、私は自分の事のように嬉しくなりました。正直私みたいな勉強をしている身の者が行ってもいいのだろうか、悩みました。できることってなんだろう、想像してみても明確なものは浮かびません。しかし、全3回の訪問で気が付きました。今回私に求められていたことは、専門的な知識でも機器の使用のサポートでもなく、Oさんと外の世界を繋ぐことだったのではないでしょうか。もちろん機器の使用のサポートは当初の目的でしたが、それ以上にOさんの変化を産んだのは、私たちが日常でするような普通の会話だと思います。その会話により笑顔が引き出せ、お話をしようとしてくださいました。話す意欲がなかったのは、構音障害があるからというよりも話し相手がいなかったから、話したいことがなかったからだったのではないかと推察します。

 私は自分に特別な力があるなんて思っていません。そうです、そんな力は持っていません。しかし、私だけでなく人という存在そのものが、誰かを癒し和ませる力があるのではないかと思いました。私はこれから人に寄り添い支援するということを職にしたいと思い、勉強に励んでおります。その中で知識だけを身につけただ提供するのではなく、人そのものに人を癒す力があることを胸に、人と関わりたいと思います。その時は思いやりを持ち、相手の気持ちやその人そのものを尊重し優しい気持ちで寄り添いたいです。

 今回はこのような機会を与えてくださいました訪問看護師のNさんには、感謝してもしきれません。Oさんとの出会いは学生の私にとってかけがえのないものとなりました。Oさんとの関わりは私に考えさせることや気付かされることばかりで、たくさんの刺激を受けました。Oさんへの感謝の気持ちでいっぱいです。これからもお手紙書きますね。いつかお返事が貰えたら、と私は密かに思っております。またOさんに会いに行きます。その時を楽しみに、日々学業に励みます。(3年生H)

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