京都光華女子大学 健康科学部 医療福祉学科 言語聴覚専攻 ニュース デフスポーツチームにおける言語運用の変容の事例~①~

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教員コラム

デフスポーツチームにおける言語運用の変容の事例~①~

7月6日~14日まで、アメリカワシントンのギャロテッド大学を会場として開催された『国際U21デフバスケット世界選手権』。
男子は10カ国、女子は5カ国が参加し、男女チームともに銀メダルを獲得、という輝かしい結果でした。


 参加国は、アメリカ・日本・イタリア・トルコ・リトアニアです。まず、予選で5カ国が総当たり戦(リーグ戦)を行い、上位4チームで決勝トーナメントに臨みます。日本は決勝戦で63-79とアメリカに再度破れ、銀メダルとなりました。日本の選手は背が高くても170㎝までですが、諸外国には180㎝を優に超える女子選手が何人もいて、体格では不利な条件の中でよく健闘しました。


〇チームプレイと言語力

 私はこの大会に直接関わったわけではないのですが、監督の大賀玲子さんと二条中学校の難聴学級担任として6年間一緒に働き、またこのチームには卒業生もいることもあって関心をもってみてきました。

 一番興味があったのは、チームプレイの中で選手達がどのように言語面で意思疎通をしてそれがバスケットの向上に繋がっているか、ということです。バスケットの技術の上達面以外で、選手らはきっと一生懸命選手同士やスタッフ、また外国の試合相手と関わろうとして言葉も駆使していったのだろうなあ、と想像するのです。期間限定のこの取組の中で、自分の中の変化を自覚した選手もいるかもしれません。そのあたりを、少し丁寧にみたいと思いました。


〇自分が選んだスポーツの中で使う言語

 何年か前にNHKの特集番組でサッカーのジュニア強化合宿のことを取り上げたのをよく覚えています。合宿中に、文章を書くとかプレゼンをするとか国語の授業のような時間が設けられていました。サッカーの選手に言語力がなぜ必要なのでしょうか。

 例えば、野球は攻守がはっきりと分かれています。ピッチャーが投げてバッターが打つ前に「間」がありベンチからのサインが出ますが、サッカーやバスケなどは、攻守は時間的に混在し、ベンチからの指示を待つ間もなく選手同士がその時々に意思伝達しながらフォーメーションを動かしていくというスポーツです。そこでは、時間内で緩急をつけて走り抜く体力や、技術が必要なのはもちろんですが、広い意味での言語力、言葉を運用する力が必要になってきます。試合中の選手同士での意思疎通は、「必要な時に すばやく短い言葉でポイントをおさえ 状況に応じた判断力をもって」行わなければいけないということです。

 言葉の勉強は学校で国語の時間にするもの?・・・いえいえ、言葉の力は自分が精一杯自分を表現する場所と時間(例えばサッカーの強化合宿や試合で)に鍛えられることのほうが多いのではないでしょうか。そして、「精一杯自分を表現する」時には、何らかの枠組みや条件がある中で、相手との関係性が必要になってくるのではないかと私は思います。


〇バスケットボールと聴覚障がい

 次に、様々なデフスポーツのなかで「バスケット」について考えます。現在国内には、本当にたくさんの種類のデフスポーツ団体があります。そのいっぽう、聾学校(聴覚特別支援学校)では生徒の人数が限られていて校内での部活動の種類は多くありません。京都の聾学校でも卓球・陸上などの個人競技部はあるけれど、団体競技は限られています。聾学校でバスケット部があるのは、福岡高等聾の男子チームぐらいだと聞きました。ということは、テニスやラグビーなどの多様なデフスポーツのグループの多くは、毎日放課後の部活練習ができる学校で培われるものではなく、学校時間外や卒業後に自らが選ぶセルフヘルプグループである場合が多いのでしょう。

 社会スポーツとしての日本デフバスケットボール協会(特定非営利活動法人)は、年に一度通称『みみリーグ』という国内で開かれる大会を開いています(聴者も参加できる)。今年は3月に福岡であり、男子11チーム女子5チームが参加しました。全国大会というわりには、知名度もまだ低く参加チームも多くはありません。


〇U21国際試合に向けてのチーム結成

 2017年にトルコで開かれたデフリンピックは記憶に新しいですが、日本はバスケットボールに男女とも参加できていません。国際的には実力がまだまだ足りなかったということです。そこで、若い世代を育成して今後の国際大会やデフリンピック等への参加を目指すという目的で、U21は「みみリーグ」参加者等から選抜され、2018年1月に結成されました。

 言葉で書くと簡単ですが、だいたい「バスケットのうまい聴覚障がいのある若者」が日本のどこにいるのか、また「声をかけたらデフバスケへ参加意欲をしめすか」なんて誰も知らないのです。その中で「みみリーグ」等の縁や「強い○○高校に補聴器つけてる選手がいるみたい」という噂を手がかりに探すなど、先のみえない道だったようです。

 U21というのは、21才未満という年齢制限があるので、選手達はほとんどが中学・高校・大学(短大や専門学校含む)に在籍しています。日常では、それぞれが所属する学校や地域で聴者の部活動やクラブチームのメンバーとして活動しています。従って彼女らがデフバスケチームとして活動するということは、月に一度週末に日常の部活等を休み、交通費と宿泊費を使って合宿に赴くことを意味します。家族の負担など考えるとなかなか厳しい条件です。

以下、U21女子の選手9人のおおまかな情報です。(分数は9人のうち何人かを示す)

・年齢や所属:
14歳から20歳
中学生1 高校生5 大学(短大含む)2 社会人1
この中で聾学校高等部1、他は地域の学校

・地域:     
関西4 九州2 北陸・関東・四国各1

・聴力:
全員が人工内耳(複数)や補聴器を装用。装用
時の聴力は様々(耳かけ型が多いが耳穴型も)
聾学校の幼稚部等で療育教育を受けた経験がある 4/9
聴力の変動(軽度→高度・重度へ) 3/9

・家族等身近に聴覚障害のある人がいる:3/9

・手話口話等:
チーム結成時=1/9 学校等、日中の主な時間で手話を用いる
9/9 自分から周囲に音声を用いるいわゆる聴覚口話ベース
3/9 家族に聾者がいるなど、限定場面で手話を使う
5/9 手話単語は多少知っているが日常はあまり使わない
2/9 手話はほとんど知らない 日常でも使わない 
1/9 指文字のみ知っている(周囲の聴者も指文字を使う)

・日常のバスケ:
9/9 中高生はそれぞれの学校の部活、大学生以上も聴者のバスケチームやサークルに属している。

・補聴器人工内耳:
7/9 聴者の中でバスケをするときは、補聴器人工内耳を装用している

*デフバスケの練習・試合時は補聴器人工内耳は外す

 

コート幅を目一杯使って攻撃する!