失語症の当事者の方が書かれた本はこれまでに何冊か出版されていますが、今回は、39歳で脳出血を発症され、右半身麻痺と失語症となった元バーテンダーの方の7年間のリハビリの記録「にほんごがこんなふうにみえたのよ!」を紹介します。
この方は右手が麻痺しているため、左手で文字を書き(途中からはパソコンに入力して)、4コマまんがも添えてご自身の症状を記録してこられました。
ご本人の話し言葉で生き生きと綴られた文章から、失語症や合併した高次脳機能障害の症状、身体の麻痺や感覚障害の症状に加えて、「心」の部分についても、当事者の方に起こっている現象を、教科書で学ぶのとはまた違った角度から学ぶことができます。
タイトルの「にほんごがこんなふうにみえたのよ!」は、写真のように「50音表のひらがなの文字が、初めて見る異界の文字みたいに見えた」という発症当初の体験からつけられたとのことです。脳の機能の低下により、視覚的に文字を認識することが難しくなったことによって生じた、具体的なエピソードの一つです。
「文字も読めないし喋ることができない その上ジェスチャーもできないんじゃあ・・・表現がそもそもできなくなったと、思ったね・・・」「最初は悲しかった」と、著者は発症当初の様子を振り返っておられますが、その後、困難な状況のなかでもユーモアを忘れず、物事を前向きに捉えようと考え方をシフトされ、リハビリに真摯に取り組まれてきた姿勢には、本当に頭が下がる思いです。
文字の読みにくさが少しずつ改善された時の様子について、「“お”という文字を読んだっていうより、“O(音はローマ字表記)”っていう音がどういう音なのかを思い出した、っていう感じのほうが近い。音が感じられないと、ただの意味のない記号に見えるのよ!面白いねぇ!!」と綴られたエピソードからは、わたしたちが普段何気なく使っている「ことば」の成り立ちやその認識について、改めて理解を深めることができ、興味深い経験になりました。
これから、このような患者さんを支援する言語聴覚士を目指す方には、ぜひ一度手にとっていただきたい一冊です。
大学のコモンズにも配架します。