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教員コラム

「診断・病名」について改めて考えてみました その1

去る9月10日、第41回日本精神科診断学会のシンポジウム「ICD-11における高次脳機能障害の位置づけ」において、「器質性精神障害と高次脳機能障害 -外傷性脳損傷を中心に-」という演題で発表をしてきました。

ICDとは、International Classification of Diseasesの頭文字をとったもので、WHO(世界保健機構)が作っている病気についての国際分類です。こういった病気の分類というのは、もちろん人間が考えて作るわけですが、病気に対する知識が増えていくにつれて、分類の改定が必要になります。例えば、線条体黒質変性症オリーブ橋小脳萎縮症Shy-Drager症候群という3つの病気は、私が医学部生だったころはそれぞれ別の病気と考えられおり、教科書にもそのように記載されていました。

ところが、近年、この3つの病気が、同じ原因つまりαシヌクレインというタンパク質が異常にたまってしまうことによって生じることがわかり、1つの病気であることがわかったため、3つをあわせて
多系統萎縮症」と呼ぶことになりました。

このように、新しい発見があると、病気の分類の仕方を考え直す必要が出てくる場合があります。そこで、ICDや、あるいはアメリカ精神医学会が作っている精神疾患の分類であるDiagnostic & Statistical Manual of Mental Disorders (DSM)などは、一定の期間ごとに改定されてきました。ICDの場合は、現在使われている分類は第10版のものになり、英語版ではすでに第11版が作成され、日本語版の作成も進みつつあります。DSMのほうは、数年前に第4版から第5版への改定が行われ、すでに日本でも第5版が使われるようになっています。

精神疾患の分類は、昔は原因論、つまり何が原因かで分類される傾向にありました。例えば「心因性」という言葉があります。この言葉は、精神症状が「心の問題から」言い換えると、「環境からのストレスなどによって反応性に」生じている場合に使われた言葉です。例えば「心因性失立」という場合、体自体には問題ない、つまり麻痺などなく、体としては立つことができるにもかかわらず、ストレスに対する心の反応として「立てなくなる」という現象をさします。

ところが、「心が原因」「ストレスに対する心の反応」といった場合、「心ってどこにあるの?」「脳は関係ないの?」「ストレスがあっても、病気になる人と病気にならない人がいるのはなぜ?」といった疑問が出てきます。そこで、現在の精神疾患分類では、このような原因への言及がほとんどない形での分類が試みられています。

つまり、例えばうつ病ですと、診断基準にある9項目のうち、5項目以上認めれば「うつ病」という診断にする、という具合ですね。このような診断の仕方を「操作的診断法」というわけです。症状の組み合わせだけで診断をつけましょう、というやり方です。このやり方は、もちろん、優れている点もあります。観察できる症状だけから診断がつけれるので、医者によって診断が違う、ということがほとんどなくなる、という利点です。

一方で、「深みがない」とでも言いますか、あまりに診断の仕方が単純すぎ、これでいいのか、という反対意見も根強くあります。例えば、大切な人が亡くなった際などに、人は深く悲しみ、落ち込み、食欲もなくなり、夜も寝られないといったことが起きますが、こういった当たり前のことも、2週間以上続けば「うつ病」の診断がついてしまうという事実があります。

今回の発表は、高次脳機能障害という脳の損傷の後遺症が、精神科診断学の中でどのように位置づけられるか、という発表でした。

ちょっと長くなってきたので、今回はこの辺で。次回、脳損傷の診断学をもう少しひも解いてみます。

言語聴覚専攻教員 上田敬太

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