2025.09.08 教員コラム

進化とヒトの心3(教員ブログ:上田Dr)

読者の皆さんこんにちは。暑い日が続きますがお元気でしょうか。

さて、進化とヒトの心と銘打ち、2回連載しましたが、あまりに広い内容なので、終わるかどうか不安になってきました。

それはさておき、前回までは、情動システムが割と古い脳のシステムに由来していること、案外情動は、動物の種を超えて共通していること、さらには、情動に関連した疾患についてもヒト特有とは考えられず、少なくともその仕組み自体は他の動物でも観察されていることなどを書きました。そうなると、ペットの心の相談室でも始めてみようか、という気にもなりそうです。

進化とヒトの心を扱う学問として、進化心理学という学問があります。

この学問は、はっきりと成立が宣言されてからまだ30年ほどしかたたない若い学問ですが、ヒトの様々な行動を進化の観点からとらえなおそうという学問です。
例えば、ヒトの特徴の1つに利他性というものがあります。

他者の利益を自分の利益より優先する行動は、一見、進化論的に矛盾する印象があります。しかしこの行動も、自分と同じ遺伝子を持っている可能性の高い相手に、ということであれば、進化論的にも特に矛盾しなくなります。ヒトの利他性のような、ある意味「人間性」「ヒトをほかの動物と区別すべき特徴」などとウェットには考えられそうな特徴も、適応戦略という観点から説明できるとなると、がっかりされる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、利他性が「進化的に説明できる」ということで、利他性の持つ価値が低下するわけではありません。

2つは全く異なる次元での説明ですので、混同なさらないでくださいね。
(参考文献「進化と人間行動 第2版」長谷川寿一、長谷川真理子、大槻久 東京大学出版会

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