2025.10.15 教員コラム

本の紹介:「なんとなく言語学」~この本を読めば、あなたもちょっとした言語学者になれる~(教員ブログ:高井ST)

著 者:本田謙介 他  出版社:くろしお出版   価 格:1600円+税
発行年:2025年4月    U R L:なんとなく言語学|くろしお出版WEB 
https://www.9640.jp/book_view/?994

【紹介】
昔、勤めていた中学校に、20代同年齢の二人の女性教諭がいて、この二人はとても仲良しでした。二人の違いは、A先生はいつもふわっとしたスカート姿、髪はセミロングで英語科担当、B先生はザ・体育教師でバスケット部の鬼顧問、いつもジャージ姿。校内を元気よく闊歩して、時には大きな声で生徒を叱ることもあり、男子生徒からも一目置かれていました。

私は、中学校国語科の授業で「助動詞」の時間になると、こんな例文を黒板に書きました。

「① A先生は、女らしい

 ② B先生は、女らしい 」

そう、①の「女らしい」は、まあ最近では死語と言ってもいいですが、たよやかで可憐な様子を表す形容詞です。フェミニンなA先生の容貌にふさわしい形容詞です。他にも「こどもらしく、無邪気に遊んでいる」とか「涼しくなって、秋らしい日が続くね」など、典型的な性質を表す、形容詞の一単語です。

ところが、②は状況がちょっと異なる。実際にバスケットの試合会場で後ろ姿のB先生が女子トイレに入っていくのをみて、他校の保護者がこうつぶやいたとすると・・・。(男性かと思っていたら、女子トイレに入ったところをみるとボーイッシュな)女性の顧問だったんだ!と驚いた、のです。この文を品詞分解すると、「女」という名詞と、「根拠のある推定を表す助動詞」の「らしい」にわけることができます。

中学3年の生徒たちが、二人の先生を思い浮かべながら、同じような文の意味の違いがわかり、にやにやした顔をみると、「お、言語のちょっとした不思議に気がついたかな」と褒めたものでした。

前置きが長くなってごめんなさい。夏休みに読んだこの本は、こんなときに感じた言語に対する楽しみというかちょっとしたセンスが満載でした。

例 ③ この本は売れない

    解説:私の大切な本だから、古本屋に持っていって売ることは考えられない、というとき。動詞「売る」 可能を表す助動詞の「れる」否定の助動詞の「ない」

   ④ この本は売れない

    解説:出版社の人が、内容のつまらないこの本は買う人がいなくて赤字になるだろう、と。可能動詞「売れる」と否定の助動詞の「ない」

他にも、電車に乗っていて、子どもからこう聞かれたら?

 「ここ、何駅?」⇒駅の名前を答える

 「あと、何駅?」⇒あと2つとか3つ、とか降りる駅までの数を答える

 このときの「何」を「なに」と読むか「なん」と読むかでも意図がかわります。

 理論言語学。ことばを科学的に分析すること。観察し、仮説を立て確認する。

こう書くとなにやら難しそうですが、ことばへの好奇心をもつこと、聴覚障害のこどもたちと、こうした気づきのやりとりができれば、楽しそうです。

軽い本ですが、私たちが自由に使えると思い込んでいる言葉に一歩踏み込んだときに小さな感動を覚えると思います。是非どうぞ。   

(高井小織)

 

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