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社会福祉って何?

償う権利~医療観察法~

「精神障害者は犯罪を犯しても無罪になる」
そんな言葉を聞いたことがある方も少なくないのではないでしょうか。

今日は「罪を犯す」ことと人権についてお話をしていきたいと思います。

日本には多くの法律がありますが、その中に犯罪とそれに対する刑罰の関係を規定する法律である「刑法」(明治40年法律第45号)というものがあります。

この刑法の第三十九条
1 心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減刑する。
という文言があります。

これは、刑罰は刑事責任能力がある者が受けるものであるという考え方に基づいています。
この刑事責任能力というのは
①弁識能力(自分の行為の善悪に関して適切に判断する能力)
②制御能力(その判断に従って自分の行動をコントロールする能力)
とを合わせたものを指します。

心神喪失者は、この刑事責任能力がない状態であり、理性的な判断をする能力、および理性的な判断によって行動することができない状態の方になるため、法律上罪に問うことができず、無罪の判決になります。

心神耗弱者は、心神喪失者よりは刑事責任能力があるとされますが、やはり、十分に備えている状態ではないため、刑罰が軽減されます。

これによって冒頭に書いた「精神障害者は犯罪を犯しても無罪になる」といわれることがあるのです。
刑事罰に関する基本的な考え方は、刑事罰は被害者のためではなく、加害者のためにあるとされています。
加害者自身が罪を償う権利を与えるというのが刑事罰なのです。

なので、罪を犯したことが判断できない人に、罪を償うことはできないという考えに基づいて第三十九条は設けられています。
罪を償う権利を与えられるというのは、人間にとって非常に重要なことです。

みなさんも、友達や親、周囲の人に対して申し訳ないことをした時、その時にそのことがバレずにすんだり、怒られたり謝ったりせずに終わった時、ずっと申し訳ない気持ちが残り続けるということを経験したことはないでしょうか。
この申し訳ない気持ちに押しつぶされそうになり、自らやったことを白状する人もいるでしょう。
バレなかったとき、怒られなかったとき、その時は「ラッキー」と感じるかもしれません。
しかし、自分が行ったことはずっとその人の心の中に留まります。

心神喪失者の方や心神耗弱者の方が、もし将来、自分の罪に気づいたとしても、その罪を償う権利はもらえません。
罪を償う権利を奪われることについて、思いを巡らせてみてほしいです。

そして、この心神喪失者、心神耗弱者の罪に対する処遇は、2001年6月に起こった附属池田小事件によって大きく動きます。
この事件は、午前中、児童たちが授業を受けているところに犯人が侵入し、刃物で児童や教員を切りつけたというものです。
この事件で児童8名が殺害され、児童13名・教諭2名が傷害を負いました。
犯人はその場で逮捕されました。

そして犯人の刑事責任能力を調べる鑑定が行われました。
この事件は世間に大きな衝撃を与えました。
そして日々、事件について報道がなされるなかで、この犯人に精神科病院への入院の既往があったことが発表されます。

そして世論は「精神障害者を社会に出してはいけない」という方向に向かいます。
この世論に対応するかのように2年にも満たない短い期間で
2002(平成14)年3月「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(通称:医療観察法)
が国会にあげられ、2005(平成17)年7月15日から施行されました。

この医療観察法は
心神喪失等の状態で重大な他害行為(他人に害を及ぼす行為をいう。以下同じ。)を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進することを目的とする
とされており

簡単に説明すると、心身喪失状態で罪を犯した人を医療につなぎ、治療を行ったうえで社会復帰を目指すためのものになります。

しかし、この法律には大きな問題がいくつかあります。

問題の1つ目は、検察官によって不起訴にされた、もしくは無罪にされた者が対象になるということです。
「不起訴」は裁判所の審判を求める必要がないと判断した場合にくだされ、「無罪」は罪とならないと判断した場合にくだされるものです。
しかし、不起訴や無罪となっているにも関わらず、再度地方裁判所によって指定入院医療機関に強制入院の審判がくだります。

基本的に、不起訴や無罪となった方は、刑罰を与えられることなく、一般社会での生活に戻ります。
しかし、心神喪失等の状態(精神障害者とされることが多い)で不起訴や無罪となった方は一般社会に戻れず、強制入院をさせられるのです。

病気なんだから、入院をして当然と思われる方もおられるかもしれません。
しかし、私たちが病気をした時に、強制的に入院をさせられることはまずないでしょう。
糖尿病や悪性リンパ腫などで命の危険にある人が、不起訴や無罪になっても強制入院になることはありません。
それなのに、なぜ精神障害者の方は新たな審判にかけられ、強制入院となるのでしょうか。

ちなみに精神障害者で、自傷他害の恐れがあるとなった場合には、精神保健福祉法で定められている措置入院という強制入院をさせる方法があります。
(この法律についても是非があり、議論されるものではありますが・・)
そして、この措置入院は精神保健指定医2名によって必要と判断された場合に行われます。


引用:厚生労働省

問題の2つ目は、この「誰が入院の判断をするのか」ということです。
先ほど書いたように、措置入院は精神保健指定医が判断をします。
精神科医療の専門家が判断をするわけです。

一方、医療観察法では、裁判官が強制入院を判断します。
精神科医療の専門家ではない方が入院の判断をするわけです。

問題の3つ目は、精神障害者は再犯の恐れが高いといわれることです。
医療観察法は、行為の再発の防止を目的とされていますが、これは言い換えれば精神障害の治療を行えば再発が予防できるともとることができます。
精神障害の方が犯罪を犯しやすいということもまた、大きな誤解です。(下記の表ををご覧ください)


引用:犯罪白書

そもそも上記の表も、なぜ「精神障害者」だけの数値が示されているのでしょうか。
他の病気や疾患と犯罪率との関係は犯罪白書の中には提示されていません。
これは「精神障害者は犯罪を犯しやすい」という偏見があるからこそ、出されるデータなのです。

精神障害を治療したとしても、再犯が予防できるかどうかわからない(精神障害と再犯の可能性が明らかになっていない)にもかかわらず、再犯防止のために裁判にかけられ、強制入院となるのです。

再犯を犯す可能性が高い人は、刑務所を出た後に「仕事」と「住居」が確保されていない人だといわれています。
もちろんその対策も国はとろうとしていますが、こうした再犯の可能性が高いとされるデータの中に「精神障害」は含まれていません。

ちなみに、この医療観察法ができたきっかけとなった事件の犯人は、最終的に刑事責任能力はあると判断され、死刑判決になっています。
犯罪のプロファイリングからも、精神障害者の方が他人を殺害したり、大量殺人を行うことは珍しいとされています。

と、問題点ばかりを書いてきましたが、この法律によって罪を犯した精神障害者の方が治療につながり、社会復帰の機会を与えらえるというのは大切なことだと思っています。
こうした法律の問題について訴えていくこともソーシャルワーカーとして重要ですが、現在の法律に則ってできる支援を行っていくこともまたソーシャルワーカーの仕事です。

医療観察法によって、処遇が決まった方に対して、社会復帰を促進するため,生活環境の調査,生活環境の調整,精神保健観察等の業務に従事する専門職を社会復帰調整官といいます。
社会復帰調整官は保護観察所に勤務する一般職の国家公務員になります。

社会復帰調整官になるためには、精神保健福祉士の資格を所持していることが一番望まれますが、社会福祉士・保健師・看護師・作業療法士もしくは臨床心理士の資格でも精神保健に関する知識が高いと判断されれば、受験することができます。
また精神保健福祉に関する業務において8年以上の実務経験を有することが受験の条件です。

試験は一次面接と二次面接になりますので、一般的な公務員試験を受ける必要はありません。
精神保健福祉に関する高い専門性が求められます。

京都光華女子大学医療福祉学科社会福祉専攻では、社会福祉士と精神保健福祉士のW資格を目指すことができます。
興味を持ってくださった方はぜひ一度、オープンキャンパスにお越しください。

浜内彩乃

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