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社会福祉って何?

国際生活機能分類(ICF)~障害についての考え方~

今回は社会福祉士として働くうえで必ず知っておいてほしい
国際生活機能分類(ICF)について説明します。

ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health,)は、2001 年5月に WHO 総会で採択されたものです。

「障害についての考え方」とタイトルに書きましたが
各人がどのような環境や健康状態で生きているかを、世界共通の分類に当てはめて認識するものですので、「障害者」だけでなく、全ての人に関する分類になります。

このICFの考え方を知り、「障害」とは何かを考えてもらえたらと思います。

ICFができるまでは「ICIDH(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps:国際障害分類)」という分類が1980年から使われていました。
日本語訳を見てもらえたらわかるように、ICIDHは、「障害」をどのように分類するかというものになります。


図.ICIDH

ICIDHの考え方を実際の状態にあてはめて考えてみましょう。

目の病気になった(疾患・変調)→視力が低下した(機能・形態障害)→黒板の字が見えにくい(能力障害)→板書が難しく、学力が落ちた(社会的不利)

となりますね。
ちなみに、「機能・形態障害」から「社会的不利」にも矢印が向かっているのは、「顔に大きなあざがある」というような場合です。
この場合、顔に大きなあざがあることで「〇〇が能力的にできない」ということは起こらないでしょう。
しかし、「就職がしにくい」「友達ができにくい」ということは残念ながら起こってしまう可能性があります。
ですので「機能・形態障害」から「能力障害」を飛ばして「社会的不利」になるという矢印があるのです。

このICIDHのモデルは障害を「機能・形態障害」、「能力障害」、「社会的不利」の三つのレベルに分けて捉えるという、「障害の階層性」を示した点で画期的なものでした。
しかし、時代が経つと共に、このモデルに対して問題点があげられるようになりました。
この考え方の何が問題でしょうか?

問題①矢印が一方向
疾患や変調があれば、機能・形態障害になり、能力障害になり、社会的不利になる・・
と一方向しかありません。
病気やけがをしてしまったら、障害を抱え、社会的不利になるしかないというように見えますよね。

問題②個人以外の要因がない
ICIDHの図に書かれていることは、すべて個人に関することです。
メガネはかけないの?
席を前にしてもらったらどう?
など環境や補助器具なども含まれていません。

問題③障害に対してマイナス面しかみていない
機能障害があるから、能力障害になって社会的不利になるというように
障害はマイナスになるという側面しか表現していません。

以上のことから、障害の専門家や当事者も参加した国際的な会議が開かれ、冒頭に書いたICFの考え方が採用されました。



図2.ICF

図を見ただけで、大きく変わったことがわかりますね。
「障害」という言葉もなくなりました。

ICIDHであげられていた問題点が改善しています。

①矢印が双方向
すべての矢印が双方向になっており、それぞれが相互作用しあっているということがわかります。
視力が低下した(心身機能・構造)→黒板の字が見えにくい(活動)→板書が難しく、学力が落ちた(参加)
という方向もありますが
音声を聞いて授業を受ける(参加)→学習を進める(活動)→視力は低い、聴力や集中力はある(心身機能・構造)
という方向も考えられます。

②環境因子と個人因子が加わった。
個人因子は、年齢や性別、個人の価値観、ライフイベントなどです。
環境因子は、人的環境、物的環境、社会制度などにわけられます。
人的環境は、友達、家族、クラスメイト、教員、専門職など、その人の周りにいる人々です。
物的環境は、建物の構造、福祉用具、公共交通機関などです。
社会制度は、憲法、法律、医療保険制度、介護保険制度などです。

環境因子や個人因子が加わることで、「活動」が変化すると考えます。
こちらも双方向になりますので
「活動」によって、必要な環境因子や個人因子が異なるとなります。

例えば、先ほどから例にあげている視力が弱い子が学習(活動)をおこなうときに
個人因子:学習意欲が高い
環境因子:席が一番前、メガネ、勉強を後から教えてくれる友達がいる
という因子が加われば、学習(活動)がしやすくなり、授業に参加(参加)しやすくなります。

③マイナス面に限っていない
①のところにも書きましたが、「視力は低い」ということも「心身機能・構造」になりますが、「聴力や集中力はある」ということも「心身機能・構造」になります。
同様に活動や、参加もできないことばかりに着目するのではなく、できることに着目して考えることもできます。

このようにICFは
それぞれの因子が双方向に作用し、複合的な関係によって、その人の全体像に影響します。
そして、このICFを使って考えることによって、その人が困っていることが何かを明らかにすることができます。

視力が弱いから困っている
ではなく
視力が弱い(心身機能・構造)ところに、教室の席が後ろ(環境因子)が加わっていることで、活動がしにくくなっている
と考えます。

そうすると
視力を回復するしかない
ではなく
席を前に移動する
という方針を立てることができるわけです。

さらに例えば
山登りサークルに入りたい(参加)
と思ったときに
山登りの練習をする(活動)
ことになり
体力がない(心身機能・構造)
という場合もあります。

この場合には
筋トレをする
という方針を立てることになるかもしれません。

この「体力がない」という状態も、「山登りサークルに入りたい」という希望がなければ
特に問題ないかもしれませんね。

これが問題!と決めつけるのではなく
どういった活動をするのか、どういったものに参加したいのか、どのような健康状態なのか
どのような個人因子・環境因子があるのかなどによって、問題となるポイントが異なります。

つまり障害についても同じことがいえるのではないでしょうか。
視力が弱くても、席を前にして、言葉での説明をわかりやすくしてもらい、後から教えてくれる友達がいて、本人も学習意欲が高ければ
授業に参加し、学習するという活動は妨げられず、障害という認識は低くなるかもしれませんね。


このICFは冒頭に書いたようにすべての人にあてはめて考えることができます。
まずは自分自身をあてはめて考えてみると覚えやすいでしょう。

浜内彩乃

オープンキャンパス 2022 OPEN CAMPUS 2022 | 京都光華女子大学・京都光華女子大学短期大学部 (koka.ac.jp)