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社会福祉って何?

発達障害の特性と困難さ

この10年ほどで「発達障害」という言葉が随分と広がったように思います。
それでもまだまだ理解がされにくい障害なのだろうと感じています。
そこで、今回は、発達障害について説明をしたいと思います。

 

発達障害は、発達障害者支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。
自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害は、名称を2013年からDSM(アメリカ精神医学会による診断基準)で自閉スペクトラム症に統一、2015年からICD(WHOによる診断基準)でも自閉症スペクトラムに統一され、注意欠陥多動性障害も注意欠如多動性症に、学習障害も限局性学習症(発達性学習症)に名称が変更されています。

ここでは、臨床現場で多く使われるDSM-5の診断基準を主に各障害について説明をします。
自閉スペクトラム症は、社会的コミュニケーションの困難さこだわり行動を特徴としており、集団の中で周囲に合わせたコミュニケーションや行動をとることが難しかったり、新規場面やいつもと違うことが苦手だったりします。
注意欠如多動症は、注意の困難さ多動・衝動性を特徴としており、忘れ物や落し物が多かったり、じっとしていることや静かにしていることが苦手だったりします。
限局性学習症は、知的な遅れがないにもかかわらず、読む、書く、計算するなどの学業的技能の使用が困難となります。漢字を読めるけど書けない、真っすぐ文章を読むことができない、簡単な計算もできないといったことが生じます。
これら3つの障害は併発することもあります。また発達障害は、知的障害とは異なる障害です。そのため、知的障害を伴う発達障害の方と、知的障害を伴わない発達障害の方とに分かれます。


図:著者作成

発達障害は生まれつきの脳の機能障害といわれていますが、はっきりとした原因は未だ解明されていません
また、上記に書いたような障害の特性だけで診断されるのではなく、社会適応ができているかどうかと合わせて診断されます。

発達障害の特性があったとしても、その特性に合わせた環境を設定することで、特性による困難さが緩和されます。
例えば、注意欠如多動症の方は、視界に情報が多く入ると、注意があちこちにそれてしまい、一番集中したいものにしづらくなるという特性があります。
そこで、仕事や勉強をする机の上には、必要なもの以外は置かないようにしたり、机を壁に向けて座るように設定したりすることで、視界から入ってくる情報を制限します。
そうすることで、一番集中したい作業に意識が向きやすくなります。

発達障害を治すことはできませんが、このように特性に合わせた環境を整えることで、生活がしやすくなります。
しかし同じ障害であっても人によって特性の現れ方は様々で、必要な環境も異なります。

例えば、自閉症スペクトラムの社会的コミュニケーションの困難さが、他者に関心を示しにくく人とのコミュニケーションをとろうとしないという特徴で表れる方もいれば、他者への関心は強いもののコミュニケーションをとるときに一方的に自分の好きなことを話すという特徴で現れる方もいます。

また、自閉症スペクトラムの方の中には、感覚の過敏性があり、他の人はなんでもないような音をひどく嫌がったり、ちょっとした感触の違いや味の違いに敏感に反応したりする方もいます。
一人一人にどのような特性があり、どのような環境が合うかを見つけることが重要です。

こうした発達特性をお持ちの方は、さまざまなところで困難さを感じています。
発達障害の特性や支援方法、発達障害者(児)が使える制度やサービスについては、本学社会福祉専攻で実施している「発達障害と制度」という授業で詳しく学ぶことができます。
担当教員は、発達障害の子どもから大人までを支援している発達障害者支援センターでの勤務経験があり、そこでの経験で学んだことも授業の中でお伝えします。

また最近は、発達障害児・者に対するさまざまな福祉サービスができ、特別支援教育でも少しずつ対応されるようになってきています。
さらに、福祉や教育だけでなく、行政機関や一般企業などでも発達障害の特性に応じた対応ができるようにという取り組みが取り入れられるようになってきています。

そうした取り組みの中で、今回は「スマイルカット」をご紹介します。「スマイルカット」は、「NPO 法人 そらいろ プロジェクト京都」が始めた取り組みです。

 

発達障害を抱えている子どもの中には、「髪を切る間、じっと座っていられない」「髪を切る手順の見通しが分からずにパニックになる」「バリカンや髪を切る音が怖い」などの理由によって、美容室や理容室を利用することができないことがあります。

そのため、家で保護者の方が四苦八苦しながら髪を切ることになったり、美容室や理容室に苦手意識をもってしまったりすることがあります。

こうしたお子さんにも「笑顔でカット」できることを目指し、発達障害に関する基礎的な知識を獲得し、特性に合わせた対応をする美容室・理容室を増やすためにNPO 法人 そらいろ プロジェクト京都の赤松隆滋(あかまつ りゅうじ)さんは、自ら髪を切るだけでなく、スマイルカットの講習会を行ったり、入門講座を作成されたりしています。

トヨタ財団助成事業・スマイルカット入門講座

この京都から始まった取り組みは、徐々に全国に広がりつつあります(実施店一覧)。
赤松さんの講習を受けた美容師さんがメディアで紹介され、現在もYouTubeで見ることができます。
ハサミやバリカン等どの道具だったら平気かどうかを確認しながら髪を切る、席に座っていられないときにも時間をかけて向き合う、個室での対応を行うなど、保護者も子どもも「ここに来てもいいんだ」と感じることができる対応を心がけておられます。
コメント欄にも多くのコメントが寄せられており、髪を切ることに困っている保護者の方が多いこと、こうした取り組みが重要だと思われていることがよくわかります。



「NPO 法人 そらいろ プロジェクト京都」の代表の赤松隆滋(あかまつ りゅうじ)さんの活動は本学社会福祉専攻の南多恵子先生も協力しています。
そして南先生が担当する「児童家庭福祉」の授業に毎年赤松さんがゲスト講師でお越しいただいています。授業の様子は下記のブログをご覧ください。

「そらいろプロジェクト京都」からの発信~発達障害児へのスマイルカットを全国に~

「発達障害」という言葉を知っていても、具体的にどのような困難さがあるかは、まだまだ知られていません。
「発達障害」という言葉と一緒に、発達障害を抱えている方々やその家族が、どのような困難さを感じているかも広まっていってほしいと思っています。

mahora(まほら)は発達障がい当事者のみなさんの声からうまれたノートです。
視覚過敏の方のなかには、「紙からの反射がまぶしくて、文字が書きにくい」、「いつの間にか書いている行が変わってしまう」、「けい線以外の情報が気になって集中できない」…という方々がおられます。
そうした方々にとっても、書きやすく、読みやすいノートです。
こうした商品やサービスが増え、発達障害を持った方々も、当たり前のことが当たり前にできる社会になってほしいですね。

また、毎年4月2日~8日は発達障害啓発週間に定められており、この1週間はシンポジウムの開催やランドマークのブルーライトアップ等の活動が行われます。

2020年には通天閣が自閉症啓発のためにブルーライトアップがされました。

引用:あべの経済新聞

この記事も、発達障害に関心が向かう一助になればと思っています。

浜内彩乃

Twitterアカウント
@shyakaihukushi


社会福祉専攻スペシャルMOVIE「社会福祉って何?」 – YouTube

社会福祉専攻がワカル!スペシャルMOVIE



☆彡社会福祉専攻のHPはこちら
https://www.koka.ac.jp/welfare/