京都光華女子大学 キャリア形成学部 キャリア形成学科 ニュース 戦時中の年末年始の過ごし方、気になりませんか?

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戦時中の年末年始の過ごし方、気になりませんか?

いよいよ来週から年末年始ということで、年末年始と戦争を掛け合わせたブログを書いてみました。

ふと戦時中の年末年始の過ごし方が気になり、色んな文献を探したところピッタリな史料が見つかりました。

戦争を話題にすると心が苦しくなる方もいらっしゃると思うので、読みたくないという方はここでストップしてください。

少し暗い話になる部分はありますが、何気ない日常がありがたいと感じられるかと思います。

今までとは少し雰囲気の違うブログとなっているので、興味のある方は最後までご覧ください。


一つ目の史料は昭和18年(1943)12月13日に、大政翼賛会事務総長が樺太(北海道の上の位置)の支部長宛てに、戦時中の年末年始の過ごし方に関する通知文です。

序論では、年末年始でも「常在戦場」の気持ちで緊張感を持ちながら戦争生活に徹するよう呼びかける1文章が書かれていました。

常在戦場というのは常日頃から戦場にいるような緊張感をもって物事に臨みなさいという意味で、長岡藩(現新潟県長岡市)を治めていた牧野家の家訓2からきています。

また年末年始だからこそ緩まず、兵器や軍事に使用する備品の生産に自ら進んで行う3ようにも呼びかけていました。

年末年始はそれぞれの過ごし方があるかと思いますが、戦時中は国民全員が戦争に協力しなければならなかったことが伝わりました。

 

次に年末年始の仕事の休暇の扱いについて書かれています。

序論の時点で予想がつくかと思いますが、敵を圧倒させるぐらいの兵器を生産するために年末年始も平日と同様の扱いで働かなければならないと書かれています。

また帰省や旅行も禁止されており、とにかく働かなければならなかった状況が伝わりました。4

また別の史料では昭和18年(1943)12月13日に、各官僚に年末年始の出勤を求める文書がありました。

この文書の中の官僚は行政裁判所長官や貴族院書記長官、衆議院書記長官など宛てに書かれていました。

さらに年始の挨拶や年賀状の送付も禁止とも書かれており5、仕事を1番優先していたことが分かります。

 

次に年賀状や宴会は全廃、門松は小枝程度でしめ飾りは簡素なものにするよう制限したり、賞与や臨時収入は全額貯金して軍事資金に備えたり、旅行や買い出し等の移動はやめて兵器等の戦争に必要な備品を運ぶことを優先するよう呼び掛ける6文章が書かれていました。

今では家族や親戚が集まって挨拶をしたりご飯を食べることが一般的ですが、当時はそれすらも禁止されていたとは心苦しいです。

また貯蓄に関してですが、貯蓄奨励が組織的に進められ7、徐々に国民にも呼び掛けていました。8

貯金額も昭和15年は120億円9、昭和17年は230億円10、昭和18年は270億円11と徐々に引き上げられていました。

この貯蓄は生活費のためではなく軍事資金は国民の貯蓄によって賄われるべきという考え方に基づいています。

質素倹約の時代で贅沢は敵だとされている上に、軍事費を貯めるためにたくさん我慢していたと思うと、限られているお金でも自由に使えるお金があるということは幸せなことなのだと実感させられます。

最後に輸送についてですが、現在は帰省や旅行に行く人も多いかと思いますが、年末年始は平日と同様の扱いで存在しないものだと伝わります。

 

以上が戦時中の年末年始の過ごし方でした。

年末年始であろうと戦争に協力しなければならない環境であること、むしろ年末年始は存在しないものとして過ごしていることが分かりました。

年賀状や年始の挨拶や旅行、帰省なども禁止され、現在と真逆の生活をしていたことも分かりました。

私は戦時中の史料に出会ったり解読するにつれ、「日本は既に恵まれているのに、なぜ世界と比べて幸福度が低いのだろう」と疑問に思うようになりました。

そこから私は小さな幸せに気づいたり、「ない」や「不足」ではなく「ある」ものに目を向けられるようになりました。

 

 

【参考文献】

1「年末年始実践要綱通知ノ件大政翼賛会事務総長通牒」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A06050869300、枢密院文書・宮内省往復・稟議・雑書・昭和十八年(国立公文書館)

2https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1153001.html#:~:text=常在戦場」%E3%80%82,座右の銘にしていたといわれる%E3%80%82常在戦場

3 「年末年始実践要綱通知ノ件大政翼賛会事務総長通牒」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A06050869300、枢密院文書・宮内省往復・稟議・雑書・昭和十八年(国立公文書館)

4 同上

5「年末年始ノ休暇日平日ト同様執務ノ件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A06050930300、枢密院文書・官規ニ関スル書類附儀礼(国立公文書館)

6「年末年始実践要綱通知ノ件大政翼賛会事務総長通牒」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A06050869300、枢密院文書・宮内省往復・稟議・雑書・昭和十八年(国立公文書館)

7「貯蓄奨励に関する件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01005551600、来翰綴(陸支普)第1部 昭和12年 昭和13年(防衛省防衛研究所)

8「昭和十五年度国民貯金奨励ニ関スル件国民貯蓄奨励局長官通牒」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A06050822100、枢密院文書・宮内省往復・稟議・雑書・昭和十五年(国立公文書館)

9「百二十億貯蓄強調週間ニ関スル件国民貯蓄奨励局長官通牒」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A06050823000、枢密院文書・宮内省往復・稟議・雑書・昭和十五年(国立公文書館)

10「230億完遂郵便貯金強調運動に関する件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C04017024400、昭和18年 「来翰綴(陸亜普)暦年未整理第1陸軍技術研究所」(防衛省防衛研究所)

11「270億貯蓄達成特別計画に関する件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C04017026200、昭和18年 「来翰綴(陸亜普)暦年未整理第1陸軍技術研究所」(防衛省防衛研究所)