京都光華女子大学 こども教育学部 こども教育学科 ニュース 梅にウグイス ・・・はほとんど来ない -梅と鳥の生存戦略ー   <明日話したくなる理科の話②>

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教員コラム

梅にウグイス ・・・はほとんど来ない -梅と鳥の生存戦略ー   <明日話したくなる理科の話②>

春ですね。日に日にあたたかくなってきて、生き物が動き始めました。我が家の梅は、いつもは1月に咲くのですが、今年はクリスマス頃に咲き始めました。

春らしい景色の代表といえば、梅に鶯(ウグイス)です。春一番に咲き誇る梅に、美しい緑色のウグイスが美しい声で春を告げる姿が想像されます。

日本人は昔から「梅に鶯」が大好きです。日本最古の漢詩集である懐風藻(奈良時代、751年ごろ)に梅とウグイスが初めて登場します(1)。万葉集(奈良時代、783年ごろ)には、梅とウグイスが出てくる歌は13首も収められています(2)

しかし、実際には咲いている梅にウグイスが来て止まることはほとんどありません。

なぜなら、ウグイスの主な食べ物は、虫だからです。梅の咲く12月には、昆虫類の多くはまだ越冬中なので、梅の木に虫がたくさんたかっている、ということはほとんどありません。

ウグイスの主な生息場所は藪(やぶ)の中です(3)。警戒心のとても強い鳥で、鳴き声が聞こえるときには姿がほとんど見られないと言われています(3)

(万葉集には、「梅の花散らまく惜しみ我が園の竹の林に鴬鳴くも」という歌が収められています。昔の人はウグイスの生態をよく知っていたのですね。驚きです。)

しかし、梅の花を見ていると、ウグイス色の美しい小鳥が梅の花をついばむ姿が頻繁に見られます。

この鳥は、実はウグイスではなく、多くの場合、メジロです。

メジロは目の周りが白いのが特徴で(写真1)、目に切れ長の黒い線があるウグイスとは簡単に区別することができます。しかも、メジロの方がウグイスよりも美しいウグイス色をしています。ウグイスのウグイス色はもっと暗くて地味です。

メジロは花の蜜や果物などが大好きで(写真2)、梅の花に蜜を吸いに来ます。

このメジロの行動は、梅にとっては蜜を吸われるだけで迷惑千万……かと思いきや、
実は、梅にこそ、大きな利益があります。

梅は同じ木の花粉では実を結ばないことが多いのです。そのまま誰も花粉を運んでくれなければ、梅は咲けども実をつけることができません。しかし、メジロが木から木へ、花から花へ蜜を求めて移動し、梅の花に次々にくちばしを突っ込むことで、異なる梅の花粉がめしべに運ばれてくっつきます。結果として梅はよい実をつけ、多くの子孫をつくることができるのです。

梅は鳥媒化(ちょうばいか:鳥に花粉を運んでもらう花)で、大量の蜜をメジロなどの鳥に提供する代わりに、花粉を運んでもらいます。うまくできていますね。進化の妙です。

「梅に鶯」は、古代中国の漢詩に由来する(4)、「松に鶴」「竹に虎」のように風流な花鳥風月を表すもので、現実の自然ではめったに目にすることはない組み合わせのようです。

京都には北野天満宮梅苑や青谷梅林など、有名な梅林がたくさんあります。野外は換気が大変良いので、他者からのウイルス感染を心配する必要はほとんどありません。

緊急事態宣言が解除されたら、梅の巧みな生存戦略に思いをはせながら、美しい梅の花とそれに集まる鳥たちを眺めに出かけてはいかがでしょうか。

             こども教育学科 中井咲織

 この記事は、2020年前期に実施した授業「理科」「理科指導法」「理科演習(実験)」のオンラインテキストで扱った内容を基に作成しました。

文献

(1)世界の民謡・童謡 梅に鶯.http://www.worldfolksong.com/calendar/japan/ume-uguisu.html

(2)楽しい万葉集.https://art-tags.net/manyo/animal/uguisu.html

(3)浜尾章二 1997 ウグイス 一夫多妻の鳥.文一総合出版

(4)韓雯 2016 「梅に鶯」の成立と変容 : 日中比較の角度から.東アジア文化研究 第1号

写真1 庭の梅とメジロ

写真2 ミカンを置いておくとメジロが汁を吸いに来る