京都光華女子大学 こども教育学部 こども教育学科 ニュース エリック・カールさんを偲ぶ ~卒業研究の報告を天上に~

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教員コラム

エリック・カールさんを偲ぶ ~卒業研究の報告を天上に~

『はらぺこあおむし』ほか、小動物や虫が出てくる絵本をたくさん作ったエリック・カールさんが91歳で亡くなられました。エリック・カールさんの絵本は、鮮やかな色、コラージュの技法で貼り合わせて描かれた絵が印象的で、子どもたちにも人気です。自身の幼少期は、戦争のため思い出に色がない、とのことで、次の世代の子どもたちには平和に明るく生きてほしいという願いを託し、明るい色調を用いたそうです。

サイズの違うページや穴をあけるという仕掛けのある『はらぺこあおむし』は、1969年に日本の偕成社が印刷・製本を引き受けアメリカで出版されました。その後1976年に日本語版が出版され、1989年には改訂版が出されています。

 

今春卒業したWさんはエリック・カールの絵本が大好きで、『はらぺこあおむし』の魅力を探ることをテーマに卒業研究に取り組みました。Wさんが着目したのは、「はらぺこ」「ちっちゃな」「ちっぽけ」「ぺっこぺこ」「ふとっちょ」といった言葉でした。英語版でこれらの単語を確認し、このような日本語表現を用いた訳者のもりひさしさんについても調査をしました。もりひさしさんの創作絵本『くまさぶろう』(1979)に、「はらぺこのくまさぶろうが」「おなかが ぺこんぺこん」といった表現をみつけ、『はらぺこあおむし』の中の語調を思わせるものと考えました。『はらぺこあおむし』は、直訳を越えた、もりひさしさんによる子どもたちへの語りかけといえるでしょう。

Wさんは、初版と改訂版を一場面ずつ見比べることもしました。リンゴの果梗、地面の描き方、太陽に描かれた目の形の違い、あおむしの角度など、改訂版で変化させていることを明らかにしました。大変面白いことに、初版では、いちごが横を向いたり、逆さまになったりしているのに、改訂版ではすべて正面を向いています。いちごを整列させ、その間をいもむしが練り歩くというユーモアを持ち、エリック・カールは楽しみながら改訂版を作ったことが感じられます。

Wさんの研究進捗報告を聞き、『はらぺこあおむし』の魅力を語りあうゼミは、とても素敵な時間でした。

エリック・カールさんは天国からニコニコして見ていることでしょう。

 

初版:いちごが横を向いたり逆さまになったりしている

改訂版:いちごは正面を向いている

『はらぺこあおむし』エリック・カール作 もりひさし訳 偕成社