健康科学部 健康栄養学科 管理栄養士専攻 /健康スポーツ栄養専攻 ニュース 「オルタナティヴな栄養教育」(授業でのとりくみと学生による企画書の紹介)                         @栄養教育研究室 巽 (no.4)

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「オルタナティヴな栄養教育」(授業でのとりくみと学生による企画書の紹介)                         @栄養教育研究室 巽 (no.4)

背景:近年にみる新たな活動域とこれから

近年、「食」・健康への社会的関心が強まってきたこともあってか、管理栄養士の起用

は新たな方面に広がる傾向にあります。例えば薬局や歯科医院などがそうです。

また一方で食物の流通場所などで食育なども盛んに行なわれるようになりました。「栄養バランス」をフレーズに「健康」を意識させた飲食店や、管理栄養士監修のお弁当販売など、健康を謳う商品の開発/展開も見られます。健康と食が結びついた実践の社会的ニーズが高まりを見せていることは確かでしょう。 

ところがそれにしては(管理)栄養士の姿そのものははっきりとは見えてきません。——管理栄養士・栄養士ももっと、これまでの給食を前提とした職域や医療現場にとどまらず、それ以外のこうした食物の行き来する場で前面的に活躍してもいいのではなかろうか——こうした「食物のアクセス」の場での健康ヘのアプローチは人びとの食実践の場に直結しており、むしろ有用的です。

 言い換えれば、これまでの栄養教育の主流である「病気への脅威」からのアプローチではなく、普段の食実践にはたらきかけることが可能な栄養教育であるといえます。私は「オルタナティヴな栄養教育」と名付けました。ここでのオルタナティヴとは、既存の栄養教育の枠に囚われない新たな栄養教育であるという意味です。

――「オルタナティヴな栄養教育」をいかにしてすすめていくか——私は、将来ある学生たちに考えてもらえば、斬新で豊かなアイデアがたくさん生まれそうだと思い、授業にも取り入れることにしました。授業の流れとしては、まず「食」をめぐる社会的ニーズや近年の状況について知る機会を授業内容に設け、その後は、学生たちがそれぞれ自由な発想で栄養教育の企画を検討することにしました。

結果、非常におもしろい企画書ができあがってきました。以下、いくつかご紹介します。

 

オルタナティヴな栄養教育企画

 

<メディアに着目した企画>

・痩せ願望のある高校生を対象にした朝ご飯にかんするインスタグラム開設

  高校生はよく利用するSNSに着目した企画、レシピなども紹介する。

・アニメ制作(タイトル:「ごはん先生」)

  管理栄養士を主人公とするストーリーアニメの制作に、管理栄養士も監修の立場として、脚本家やキャラクターデザイナーに指導・助言をする。また、作中に登場する食事の献立や食事の方法について提案する。

・「五感を使った食の展示」企画書

アートギャラリーにて人間の五感と食をテーマにしたアート作品を展示する。

たとえば、スーパーのチラシにある食べ物を切り貼りした作品や、ある食べ物の匂い

がする箱、ボタンを押したら食べ物の音がする空間(AMSR的なもの)、.野菜をMRI

に通した画像の展示など

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ファミリーレストランでの栄養教育を、懸賞付きクイズをとおして実践

   <美容にかんする栄養教育>

   ・対象者が栄養バランスの整った食事で肌荒れ改善を目指すための栄養教育

 皮膚科に通う肌荒れに悩んでいる1020代の男女を対象にした

・「見て!触れて!美肌を目指そう!」

  聴覚に障がいを持つ若者を対象にした調理をとりいれた栄養教育

<フードロスに着目した啓発活動を食消費の場で展開する>

・「電気代を美味しく解決?!~食品ロスを減らすことで得られるメリットって何?~」

  電気代の節約が、環境やフードロス、国際的な貧困問題にも結びつくという発想か

ら考案された取り組み

・「小さなことから、減らそう食品ロス」

   消費者の立場に立ってスーパーマーケットでの具体的な方法を検討

・「東京ドーム5杯分の食品ロスを減らすために、私たちにできること」

   行政主体でおこなうSDGsに管理栄養士が参画 

<調理とソーシャルキャピタルに着目した企画>

・農家さんや漁師さんと連携した地元カフェ

   地元の食材をもちいたメニューの提供により、地元食材による食と地域の魅力発信を展開、地域活性化も目指す

・「家族や自分にご飯を作ってみよう!」

   心理的、情緒的、身体的あるいは、社会的要因・背景などにより通学したくてもできていない生徒、学生(中学1年生~高校3年生)を対象にした取り組み

・「お話ししながら楽しく学んで健康長寿を目指しましょう!」

地域の自治会館や市民センターにて行なう高齢者を対象とした栄養教育で、地域におけるソーシャルキャピタルの醸成を目指す

「夏の農業学校!」

農作業をしている高齢者と子ども(とその保護者)のコミュニケーションをねらいとした農業体験を含む料理イベント

<フードサービスの場に着目した企画>

  ・「料理でQOLの向上!」

郷土料理や異国料理、イベント・行事に合わせた料理を簡単に調理できるよう、宅配および関連するサービスの提供

・「親子の会社食堂」を夏期休暇に企画

社内食堂に社員の家族が参加するイベントを企画、こどもの食の問題を企業が支援

 

おわりに

3年生による企画、いかがでしたか?

私は、栄養学的な視点だけでは見えてこない、人びとの食をめぐる内在的な問題にまでアプローチを試みたいい企画ばかりだと思いました(さすが3年生!)。本当に大変よい刺激を受けました。(私も頑張らねば!!)

学生のなかには、「この課題は大変でもあったが楽しかった」という声もありました。——近い将来には、こうした経験や柔軟性ある思考力を存分に生かし、「これからの健康教育」の場においてイニシアチブのとれる管理栄養士を目指してほしい!——と期待は膨らみます。                                   ()