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2016.07.02 おしらせ世界のニュースの現場を目撃しました 「ライフデザイン特論Ⅰ」フィールドワーク
京都の地で「グローバルなもの」との出会いを探究する授業「ライフデザイン特論Ⅰ」。担当の国際ジャーナリスト・脇田哲志教授とともに、立命館大学国際平和ミュージアムで開催された「世界報道写真展2016」を見学し、同じ時代を生きる世界の人たちの現実を見つめました。
この写真展は、毎年オランダで開催される「世界報道写真コンテスト」で選ばれた作品が紹介されるもので、今年は、世界の6000人近いフォトジャーナリストが撮影した8万点あまりの作品から、150点が選ばれました。昨年1年の間に世界を揺るがしたニュースが、鋭い写真の中から、私たちに生々しく迫ってきます。
展覧会としては珍しく、見学者も写真撮影がOKなのです。見学した学生たちが自ら選び、そして自ら写した写真と、写真に寄せたコメントを紹介していきます。
まず、学生Y.Mさんが選び撮影した写真は、これです。この写真は、コンクールの「大賞」を受賞した作品でもありました。昨年から今年にかけて、シリアなどからヨーロッパを目指した、たくさんの難民の人たちの姿は忘れられないものですが、この写真は、ハンガリー政府が難民の流入を阻止しようと国境に作ろうとしていた有刺鉄線のフェンスができあがる目前に、すき間から国境を越えようとしているシリア難民の親子を撮影したものです。フラッシュを使うと警備兵に見つかってしまう…なので、カメラマンは、月明かりを頼りにシャッターを切りました。
Y.Mさん
「男性の目から、すごく必死で疲れているのがひしひしと伝わってきます。赤ちゃんは寝ているのかどうか分かりませんが、状況を知らないように見え、それもまた苦しく思いました。(中略)そのフェンスを作った時間とお金を、少しでも難民のために使うことはできなかったのか、また、考えなかったのかと疑問に思いました。(中略)私は、他の作品もいっぱい見て、すごく複雑でいたたまれない気持ちになりました。これが世界の現状だと思うと、大きな規模で考えると、全然、平和な世界ではないのだと痛感し、辛く思いました」
同じ難民をとらえたこの写真は、H.Yさんが選び撮影したものです。この写真は、シリアからレバノンの難民キャンプに逃れてきた5歳の女の子です。
H.Yさん
「これは、レバノンの難民キャンプで夜に撮られた写真です。この子の家は夜に襲撃されてしまいました。こんなに小さい子でも、すごく怖い思いをたくさんしているのです。何も分かっていない子どもたちは、今まで家で普通に生活してたのに急にキャンプ生活になったり、不安で不安で仕方ないだろうなと思いました。(中略)この子以外にもたくさんの子どもたちが難民キャンプで生活したり、ボートで違う国に移動したり、それが当たり前のようになっているのが、悲しく感じました。小さいのに、すごく大きなトラウマになったりしているんだろうなと思います。日本では普通に生活しているのが当たり前だと思っているけど、この生活が当たり前ではない国がたくさんあることを絶対忘れてはいけないなと思いました。そして、もっともっと難民の人たちのことを知りたいなと、思わされました。少しでも私たちができることはないのかなと、考えさせられました」
内戦が始まって5年、今も激しい戦闘が続くシリアでは、人口の半分にあたる1000万人以上が住むところを失い、その半分の人が難民として国外に逃れたとされています。人々が逃げ出さざるをえないシリア国内の様子をとらえた組写真を、R.Yさんは、こんな風に撮影しました。
R.Yさん
「紛争で血だらけになっている子どもたち。右上の子はもうすでに亡くなっていて、その子を抱っこしているお父さんの姿を現わしている。こんな写真を見ると、日本がどれだけ平和で、私たちが毎日過ごしてる何気ない日々がどれだけ大切なのか、改めて考えさせられました。早く紛争などは無くなってほしい。そして幸せというものは、人それぞれ考え方が違うけれど、血を流すことは人間誰でも幸せではないと思うから、どこの国も早く平和になってほしいと思いました」
M.Fさんはこの組写真から、特にこの1枚を選び、撮影しました。
M.Fさん
「私が選んだ写真はこの写真です!この写真を見て、まず痛々しく、とても可哀想という気持ちになりました。シリアでは内戦があり、爆撃が続いています。今の私たちの生活からは、とても考えられないことです。男の子が血だらけになって治療を待っています。いろんな負傷者がいるから、なかなか治療ができなくて、こんな小さい子どもでも治療してもらえず待たなくてはいけないのです。(中略)もし私だったら、痛くて、この男の子のような泣きそうな顔になると思います。苦しむ人がたくさん増えるのに、なんで内戦なんかになるのかと思いました。いつか無くなってほしいです。たくさんの写真を見て、私たちは、贅沢な生活をしているなと思いました」
この世界報道写真展は、今、世界が注目している大きなニュースをとらえた写真ばかりでなく、フォトジャーナリストが掘り起こして、人々に問題のありかを伝える貴重な写真も数多くあります。事実をビジュアルに切り取る写真は、一目瞭然、パワフルに人々の心に訴えかけてくるのです。A.Nさんが選び、撮影した写真もその一例です。
これは、ブラジルのアマゾン川の支流タパジョス川で遊ぶ先住民の子どもたちの姿です。アマゾンのジャングルに育つ、ものすごく高い木から川に飛び込む子どもたちの姿は、悠久の昔から、この自然とともに生きてきた先住民の人々の調和のある暮らしを感じさせてくれます。しかし、豊富な水量に目をつけたブラジル政府は、ダムを造り水力発電所を作る計画を立てました。先住民たちは、自分たちはこの土地に残る権利があると主張し続けていますが、果たしてこの子どもたちの姿は、いつまで見ることができるのか、と訴える写真です。
A.Nさん
「このカメラマンは、タパジョス川が、この民族にずっと受け継がれてきたことを現すために、大人ではなく子どもを被写体に選んだんだと思いました。また、写真を子どもの目線で、しかも背後から撮ることで、「ずっと、タパジョス川で遊んでいたい」という訴えや、「大人だけで勝手に決めてほしくない」といった訴えも、伝わってきます。お金のために、ブラジル政府は全く人々の声を聞かず、勝手だと思いました」
最後に、脇田先生が選んで撮影した2枚の写真を紹介します。
1つ目は、この写真。シリアから隣国レバノンに逃れてきた難民の家族が、何かの大切な日なのでしょうか、正装して家族の集合写真を撮ろうとしています。着飾った姿とは対照的に背景に見えるのは、みすぼらしい難民キャンプのテント。そして、向かって右横の誰も座っていない椅子は、行方不明となっている家族の存在を現しているのです。
もう1枚は、日本のカメラマン・小原一真さんの作品を、撮影しました。
今から30年前に起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故。小原カメラマンは、去年現地に入り、原発で働く人々と家族が多く住んでいた街で見つかった昔のカラーフィルムを使って撮影したのがこの写真です。モデルは、事故の5か月後に生まれたマリアさん。長年、放射線障害のひとつである慢性甲状腺炎に苦しみながら成長した彼女の姿を、古いフィルムで撮影し、苦労して現像したのがこの写真でした。「原発事故から30年」の現実が、ぼんやりした白黒写真からリアルに迫ってきます。この写真は、「人々の部」組写真の1位を受賞しました。
私たちが生きる地球の上で繰り広げられているさまざまなできごとを、写真を通じて、身近なこととして共感できた時間でした。
※見学の際に撮影した写真のHP掲載について、立命館大学国際平和ミュージアムのご承諾をいただきました。