京都光華女子大学 短期大学部 ライフデザイン学科 ニュース 魚を情報デザインする(6) 「イクラの生物学」

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魚を情報デザインする(6) 「イクラの生物学」

みなさん、こんにちは!

ライフデザイン学科で情報分野を担当している辻野です。

 

イクラの食べ方

皆さんは、「イクラ」は好きですか?

最近は、「サーモンとイクラの親子丼」で幸せを感じています。「海鮮太巻き」にイクラをトッピングして食べるのも好きです。

というわけで、今回のテーマは「イクラ」です。

イクラは、回転寿司のメニューにもありますよね。(図1



1 イクラ軍艦巻き

 
市販のイクラは、塩漬けや醤油漬け(図2)にされて販売されています。この他に味噌漬けもあるそうです。



2 イクラの醤油漬け(出典:農林水産省「うちの郷土料理」)


郷土料理にもイクラを使ったものがあります。

福島県の「はらこ飯」は,醤油に漬けたイクラをご飯にのせたものです。(出典:農林水産省「うちの郷土料理」)



3 はらこ飯(福島県)(出典:農林水産省「うちの郷土料理」)

 
一方,宮城県の「はらこ飯」は、「現代では煮上げたサケ、サケの煮汁で炊いた米、煮汁にくぐらせたいくらをそれぞれ盛り付けるが、昔はすべてを混ぜ合わせた「混ぜご飯」だったという」(出典:農林水産省「うちの郷土料理」)ものです。

 
4 はらこ飯(宮城県)(出典:photoAC

 

イクラは卵子

今回は、生物学の視点でイクラについて解説しましょう。

サーモンのメスが成熟して大人になると、卵巣が発達します。この卵巣を取り出したのが図2の筋子(すじこ)です。

 5 筋子

 
筋子全体を覆っている膜を取り除いて、中に入っている粒をばらばらにしたのが「イクラ」です。


6 筋子とイクラ

 

広辞苑 第七版によると、「イクラ」は次のように書かれています。

(魚卵の意)サケ・マスの卵を塩漬けにした食品。日本では、すじこに対し、成熟卵を卵巣からばらばらに取り出して作ったものをいう。

さけ・ます類の総称として「サーモン」という言葉が使われているので、「サーモンの卵」の方が分かりやすいかもしれませんね。

市販のイクラは、サケ(秋鮭,シロザケ)、ベニサケ、ギンザケ、サーモントラウト、カラフトマスなど様々な種類が流通しています。また、サーモンの仲間のヤマメ(サクラマス)やイワナの卵が、「黄金イクラ」という名称で売られています。ネットで検索するとすぐに見つかるので、調べてみてください。

ひと粒のイクラ1個の細胞であり、「卵子」です。

我々の身体は、たくさんの細胞が集まってできています。これは魚も同じです。

卵子と精子が出会って、ひとつの細胞である受精卵を形成します。受精卵は、細胞分裂を繰り返して身体を作っていきます。

この身体を構成している細胞には、染色体が2セット入っています(染色体が2セットあるために二倍体といいます)。そのうちの1セットはメス親から受け継いだものであり、もう1セットはオス親から受け継いだものです。

ちなみに染色体は、遺伝子であるDNAとタンパク質の複合体です。細胞分裂の中期に細胞内の構造として現れます。細胞内の色素に染まる構造として発見されたため、染色体と名付けられました。

通常の細胞分裂(体細胞分裂)では,2セットある染色体それぞれのコピーを作り、2つの細胞に分裂する過程で、2セットずつ引き継ぎます。図7では、1セットの染色体を「n」で表します。


7 体細胞分裂

 次の世代を生み出すために、メスは卵子を作り、オスは精子を作ります。卵子と精子は、体細胞分裂とは異なり、最終的に染色体が半分の1セットになります。

そして、卵子と精子が出会って2セットの染色体を持つ細胞に戻ります(受精)。その後、細胞分裂を繰り返して大人に育ちます。


8 受精から発生における染色体セット数の変化

性決定方式

ところで、メス・オスという性別はどうやって決まるのでしょうか?

オスとメスの染色体に違いがある生物がいます。この性別によって違いがある染色体を「性染色体」といい、性染色体の組合せで性別が決まります。(性染色体では決まらない動物もいます)

サーモンは哺乳類と同じく、1セットの染色体ごとに1本の性染色体を含みます。このため、染色体を2セット持つ細胞には、性染色体を2本含みます。メスとオスの両方にある性染色体をX染色体、オスだけが持つ染色体をY染色体と呼びます。このため、メスはX染色体を2本持つため染色体型を「XX」と表現し、オスはX染色体とY染色体を1本ずつ持つため「XY」を表現します。

9 メスとオスの染色体型

 

以後、X染色体を含む染色体セットを「X」、Y染色体を含む染色体セットを「Y」と表現します。

メスの染色体型は「XX」であるため、卵子は「X」だけです。これに対してオスの染色体型は「XY」であるため、精子は「X」と「Y」の2種類ができます。このため、受精の時の精子が「X」なら受精卵の性染色体の組合せが「XX」になりメスが育ちます。これに対して、精子が「Y」なら受精卵の性染色体の組合せが「XY」になり、オスに育ちます。


10 染色体による性決定様式

 
他のサーモンの仲間の性決定様式も、ここまで説明したものと同じXX/XY型です。

今回は、少し難しかったですか?

次回は、サーモンの養殖と性の制御について解説します。


 〇参考資料
画像
・写真:農林水産省「うちの郷土料理」,https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/index.html 
・魚,食べ物のイラスト:いらすとや,https://www.irasutoya.com/

・料理:写真AC,https://www.photo-ac.com/ 
・図:PowerPointで自作

 

書籍
・井田 齊,奥山 文弥(著),「改訂新版 サケマス・イワナのわかる本」,山と渓谷社,2017年
・田沼 靖一(監修)「Newton大図鑑シリーズ 生物大図鑑」,ニュートンプレス,2021年
・和田 勝(著)「基礎から学ぶ生物学・細胞生物学 第4版」,羊土社,2020年
・新村 出(編),広辞苑 第七版,岩波書店,2018年

 

ウェブサイト
・農林水産省「うちの郷土料理」,https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/