京都光華女子大学 短期大学部 ライフデザイン学科 ニュース 「人はそれほど論理的ではない? ~ベイズの定理とモンティ・ホール問題から」

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「人はそれほど論理的ではない? ~ベイズの定理とモンティ・ホール問題から」

ライフデザイン学科教員の相場です。

人はそれほど論理的ではないという話をします。有名な例が「モンティ・ホール問題」です。

「プレーヤーの前に閉じた3つのドアがあって、1つのドアの後ろには景品の新車が、2つのドアの後ろには、はずれを意味するヤギがいる。プレーヤーは新車のドアを当てると新車がもらえる。プレーヤーが1つのドアを選択した後、司会のモンティが残りのドアのうちヤギがいるドアを開けてヤギを見せる。ここでプレーヤーは、最初に選んだドアを、残っている開けられていないドアに変更してもよいと言われる。ここでプレーヤーはドアを変更すべきだろうか?」

答えは「ドアを変更すべき」です。ドアを変更したほうが当たる確率が2倍になります。ところがこの答えに納得できない人が多いようです。「そんなはずはない。ドアを変更してもしなくても確率は同じだ!」と大論争に発展したということです。

 

この問題は、「ベイズの定理」という確率に関する有名な定理(ベイズの定理というと「聞いたことがない」という人も多いと思いますが、高校の数学で学んだ条件付き確率のことです)を学習する典型的な問題にもなっています。最初は3つのドアとも当たる確率は等しく3分の1なのですが、司会者がはずれのドアを開けたという事実を踏まえると確率がどう変化するかが問われているのです。

 

(もっともベイズの定理を持ち出すまでもなく、次のように考えれば答えが納得できるはず(?)です。プレーヤーが1つのドアを選んだ段階で、そのドアが当たりの確率は3分の1で、残りの2つのドアに当たりがある確率は3分の2ですね。そこで、司会者がはずれのドアを1つ開けるのですが、たとえそうだとしても残りのドアの2つに当たりがある確率は3分の2ですよね。したがって、「ドアを変更したほうがよい」となるのです・・・納得できましたか?)

 

この問題の変形バージョンはいろんなところに取り上げられています。たとえば、マンガ「Liar Game」(第3巻第23話)でも取り上げられて、ヒロインがまんまと騙されています(もっともその後ヒロインはその裏をかいてうまくリベンジしていますが)。ネタバレになるのでこれ以上は控えておきましょう。

 

ゲーム番組やマンガで楽しんでいる限りではどうということもないのですが、ベイズの定理は「人間が経験に学んで、これまでの判断をどう改めるかを数学的に表現したもの」となると笑って済ませられない問題にもなるのです。

 

「数学の言葉で世界を見たら 父から娘に送る数学」(大栗博司著、幻冬舎)ではそのような問題として、原発の重大事故の起こる確率は、福島第一原子力発電所事故が起こった後ではどう変化するかという問題を取り上げています。

 

それによると、50年に一度事故が起こる確率は、事故前の約0.005から事故後の0.5へと莫大な増加を示しています。もっとも、著者は、非常に簡単な仮定を採用し、勝手な数字を採用しているので、「この結果を額面通り受け取ってはいけない」と述べています(計算の詳細(それほど難しくありません)は、ぜひ本を読んで確認してください)。

 

ただしこうも述べています。

「進歩とは、経験を積むごとに、より正確な知識を持つようになるということだ。新しい情報が手に入ったとき、これまでの判断を変えることのできる勇気とやわらかい心を持とう」

 

なるほど。ベイズの定理も深いですね。