京都光華女子大学 短期大学部 ライフデザイン学科 ニュース 紅花(ベニバナ)の話 その2 ~紅花の染め方解説

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紅花(ベニバナ)の話 その2 ~紅花の染め方解説

あれこれ184

こんにちは。ファッション分野担当教員の青木正明です。

今回は紅花の染め方を紹介します。それぞれ工程ごとにいろいろと意味がありますので簡単にそのあたりを解説しながら、画像と一緒にお話を進めてゆきます。

工程1

コットンとシルクのハンカチを染め比べます。染料は現在も山形で作られている伝統的な紅花染料「紅餅(べにもち)」です。収穫した花弁を水洗いし、湿ったまま数日置き熟成させた後に乾燥したものです。熟成することで色素が増え、品質の良い染料となります。


工程2

まず紅餅を水ですすぎ黄色素「サフロールイエロー」を洗い落とします。この黄色素は普通に水に溶けますのでどんどん出てきます。しかし主役の赤色素「カルタミン」はアルカリの水にしか溶けません。普通の水ですすいでいる間、赤色素はまだ紅餅の中に留まっています。その後、炭酸カリウムを溶かしたアルカリ水に紅餅を浸けて揉み続けます。するとアルカリが好きなカルタミンは液の中に出てきます。まず黄色素を水で洗い落としその後にアルカリ水で赤色素を取り出す、という方法で赤味の強い紅花染を目指します。昔は藁(わら)を燃やした灰を水で溶いた上澄み液「灰汁(あく)」をアルカリ水として使用していました。灰汁の主成分は炭酸カリウム。今回使用しているものと同じ物質です。


工程3

アルカリ水で色素を取り出し終わった紅餅です。赤味が抜けていますね。「あぁ、色を頂いたんだな」と目で見てこんなにわかり易い天然染料は珍しいです。


工程4

紅餅を揉み下して赤色素カルタミンが溶けている液です。ですがこの液にハンカチを入れても染まりません。カルタミンはアルカリ状態では繊維にくっついてくれないのです。アルカリの染め液に酸を入れて「中和」します。昔は梅酢や米酢を酸として投入していました。筆者は特別な時でない限りいつもクエン酸を使用しています。クエン酸は梅酢の主成分です。


工程5


クエン酸を入れてかき混ぜるとすぐに染め液の色が赤みを増します。そして細かい泡が出てきます。これは炭酸カリウムとクエン酸の中和反応によって発生する二酸化炭素です。


工程6

そこにすかさずコットンハンカチとシルクハンカチを入れて染めます。見る見るうちに色が布に入っていくのがわかります。


工程7

最後に水洗いして乾かします。紅花の赤は洗剤にも日光にも非常に弱い、デリケートな色素です。基本的には水洗いだけで完成させます。なお、全ての工程において全く加温をしていませんでした。これはカルタミンが熱に非常に弱いためです。40℃程度までであれば大丈夫ですが高温になると色が壊れてしまい美しい赤は跡形もなく消え去るため、紅花染めに熱は禁物です。


工程8

下のハンカチがコットンで、上のハンカチがシルクです。一緒に染めるとコットンは激しいショッキングピンクに、シルクは優しいピンクになります。これは
①カルタミン(赤色素)はシルクよりもコットンと相性がよい
②サフロールイエロー(黄色素)はシルクに普通に染まるが、コットンにはほとんど染まらない
という二つの理由によります。②のようにコットンに染まりにくい色素というのは天然染料の中でも多く存在しますが、①の現象はとても珍しいのです。そして、なぜこのようなことが起こるのか、化学的にはよくわかっていません。



花の中に存在する全く性格の違う黄色素と赤色素。この性質の違いを把握して注意深く作業をするのが紅花染めです。今回の紅花染めは黄色素を完全に取り去ることをせずに染めたため、シルクハンカチには少し黄色素が染まり優しい色となりました。これはこれでよい色ですが、やはり紅花染めといえば全く黄色味を感じないショッキングピンクです。次回はシルクをショッキングピンクにするためのお話をしようと思います。