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2024.12.12 教員ブログタヌキと天狗と「有頂天家族」
ライフデザイン学科教員の久世です。
先日、京都南座の公演「有頂天家族」を見に行かせて頂きました。同作の原作は、漫画やアニメにもなっている、森見登美彦先生の小説です。タヌキと天狗と人間が京都を舞台に繰り広げる痛快なお話です。イメージぴったりのキャストの皆さん、再現度抜群の舞台美術、可愛らしい狸とカエル、南座の舞台を活かした演出…と、余す所なく楽しんできました!今回思いがけずご縁があり、こちらの公演のパンフレットに、「化かすタヌキ攫う天狗」という短い読み物を書かせて頂きました。今回はそこには書けなかったお話を少し。
タヌキは、人里近くに住む野生の動物だからでしょうか、何かに化けて人間を驚かせる話は日本中にたくさん残っています。落語や昔話にも多く出てきますが、どれもちょっと間抜けで、親しみあるキャラクターに描かれていますが、そうではないものもあります。
大正4年京都火事があった際、京都市の熊野神社の神官が、この火災は狸の祟りによるものだとの託宣を受けたそうです。そして、狸を稲荷神として祭祀すれば火災を免れるとして、祀られることになったといいます(大森恵子「火の神稲荷の信仰諸相と形成過程」『近畿民俗』129・130号、1992年)。そもそも熊野神社には杢兵衛狸という狸がいて、油揚げを備えると歯痛を治してくれたという話もあった(「土俗集」『郷土趣味』11号、1919年)。稲荷、油揚げ、とくると、狐を眷属としているイメージが強いけれど、狸も稲荷神として祀られることもあるのかと、驚いた例でした。
また、京都にはいろいろな化物や天狗の話が残っています。皆さんは天狗といえば、どんな顔を想像するでしょうか。大きく分けて、烏天狗と赤い顔の鼻高天狗に分かれると思います。
例えば、江戸時代初期に描かれた『太平記絵巻』には、鳥のような嘴を持った天狗が描かれています。一方、江戸時代後期に描かれた判じもの(絵文字クイズ)では、鼻高天狗を「ま(魔)」とするくらい、魔物といえば天狗、天狗といえば赤顔鼻高、というイメージがついたようです。
「たる」に「゛」と「魔」で、だるま(国立国会図書館デジタルアーカイブス「しん板手あそひづくしはんじもの」)
天狗の造形についてはいろいろな説がありますが、『日本書紀』に鼻が長く背が高く、眼は鏡のように輝き赤いほおずきのようだとされる、猿田彦神の容貌が影響を与えている可能性も指摘されています。また、服装からは修験者の影響が見受けられます。
『太平記絵巻』巻第二(Google Arts&culture/埼玉県立歴史と民俗の博物館所蔵)北条高時と踊る天狗(左端)。楽しそう。
京都では鞍馬山や愛宕山など、天狗の棲家とされる山もあります。太秦には住宅地の中に太郎坊の井戸と呼ばれる井戸があったり、天狗杉と呼ばれる杉の古木があったり(牛尾山法厳寺)、身近に天狗伝承を感じることができる場所があるのは楽しいですね。