京都光華大学 短期大学部 ライフデザイン学科 ニュース 天皇のみが着用できる謎多き色彩「黄櫨染」 その2 ~染色方法

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天皇のみが着用できる謎多き色彩「黄櫨染」 その2 ~染色方法

⇒「天皇のみが着用できる謎多き色彩「黄櫨染」 その1 はこちら!

こんにちは。ファッション分野担当教員の青木です。
天皇の実が着用できる謎多き色彩『黄櫨染』 その1」の続編です。今回はその染色方法についてお話しようと思います。

最古の染色レシピ

西暦927年に「延喜式(えんぎしき)」という平安時代の律令(往時の主な法典)の施行細則集が編纂されました。延喜式は全文が現存しており、その内容を調べることで当時の国政を推察できる非常に重要な文献ですが、重要な点はそれだけではありません。延喜式には、長い船旅で海外に赴く遣使に持たせる薬箱の中身から、酢・醤油・味噌・酒など食材の作り方まで、法令だけでなく当時の貴族の衣食住に関わる事柄が仔細に記録されているのです。その中にはもちろん装束についての章「縫殿寮(ぬいどのりょう)」もあります。内容は簡単に言えば生徒手帳に記された「服装の心得」といったところでしょうか。そして、この服装の心得集の中に、なんと38色分の染色レシピが遺されているのです。「なんと」と記したのは、これはわが国最古の染色レシピであるとともに世界でも有数の古代染色技法に関する記録でして、私たち染色家から見ると珠玉の宝物だからなのです。延喜式を編纂した平安時代の法律家たちに「よくぞ書き残して下さった!」と、もし可能ならお礼状を送りたいくらいです。

ここでやっと本題に入りますが、先月から解説している黄櫨染のレシピが、この全38色の中で筆頭に書かれているのです。二番目は、皇太子のみが着用できる色、黄丹(おうに)のレシピです。そして三番目には冠位(即ち現人神(あらひとがみ)ではない貴族達のヒエラルキー)で最高位の色、紫と続きます。そう、ここでも当然のことながら、黄櫨染は最高位なのです。


黄櫨染の染め方

では、最古のレシピを参考に黄櫨染の染め方を簡単に解説します。

1.ハゼの心材を煮込んでスープを作り、そこに絹地を入れて染めます。



2.薄く染まった生地を、椿灰から作った灰汁(あく)に漬け(媒染(ばいせん))、発色と定着を促し、まず赤みを少し感じる黄色に染めあげます。



3.スオウの心材を煮込んでスープを作り、そこにハゼで黄色に染まった絹地を入れて染め重ねます。



4.再度、椿灰の灰汁に漬け、発色と定着を促し、黄櫨染が出来上がります。



簡単に言えば、ハゼで染めてスオウで染めれば出来上がり、というわけです。ハゼの黄色にスオウの赤が加わって赤茶系の色に仕上がります。ですが、実際には“そうは問屋が卸さない”のです。先ほど “延喜式を参考に”と言いましたが、延喜式に記された本当の黄櫨染は、染め回数も使う植物の分量も、どちらもびっくりするくらい多く、そして、その染め方は謎だらけなのです。

次号では、黄櫨染にまつわる様々な謎についてお話させて頂きます。

⇒つづく


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