京都光華女子大学 健康科学部 心理学科 ニュース 大学院の事例検討会(ケース・カンファレンス)

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教員コラム

大学院の事例検討会(ケース・カンファレンス)

大学院心理学研究科では、臨床心理の技術とカウンセラーとしての姿勢を身につけるため、毎年一泊の研修会を行っています。ここ数年は、京都白河院という京都らしい閑雅な旅館にお世話になっています。この旅館には、東山を借景とした池泉回遊式の本格的な山水庭園があり、この庭園に面している武田五一設計の数奇屋造りの別館で、事例検討会を行います。庭園に配されている木々の、虚飾とも枯淡とも違う、むしろ生命のゆらめきのような盛夏の緑を目の端に感じながら、一つの事例をめぐって参加者全員が新しい理解を得ようと真剣に向き合うという体験は、この上なく貴重で有意義で贅沢なものだと感じます。ちなみに、今年の参加者は44名でした(教員7名、学外講師1名、カウンセリングセンター職員4名、大学院生17名、研究生13名、修了生2名)。

事例検討会(ケース・カンファレンス)は大学院ではほぼ毎週行っています。それをさらに場所を移して宿泊までして行うのは、私たち心理カウンセラーを志す者にとって、事例の検討が他に替えることのできない大切な学びの機会だからです。たとえば、誰もが幸福になりたいと思っているにもかかわらず人はなぜ不幸を招くような行為をしてしまうのかといった難問を前に途方にくれたり、とっくの昔に終わってしまったはずの痛みに心は今も涙を流し続けていることに気づいて驚かされたり、複雑に絡まっていた多数のストーリーが思いもよらず新しい意味を帯びて関連し合い、何かの力に導かれるように大きなストーリー(私の物語)へと次第にまとまっていったり。そうして、人の心に寄り添うということの難しさと厳しさに文字通り何度も打ちのめされながら、そのたびに気持ちを新たにしていきます。

カウンセリングとそれを支える事例検討会では、他者のライフヒストリーに安易に同意したり批評を加えたり分析を試みようとするのでなく、それをある種の必然性をもったストーリーとして理解しようとすることで、心というものに対する感受性が試され、刷新されていくのです。他人の生をともに生きるかのように自分を重ね合わせながら、一回きりの人生では経験できかったかもしれないことを疑似的に経験することで、心を豊かに広げていくことになるのだと思います。

長田 陽一(2016年10月1日)