京都光華女子大学 健康科学部 心理学科 ニュース 心を歴史的に見るということ(後編)

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教員コラム

心を歴史的に見るということ(後編)

 さらに、そう遠くない未来には、人間と人間、人間とモノだけでなく、モノとモノとがコミュニケーションを取るようになり、人間はその一部に組み込まれていくでしょう。いずれ人類は自分の記憶を脳から外部の記憶媒体に直接保存できるようになるかもしれず、そうなると記憶を他の人と共有できるようになるし、他人の記憶を検索し自分のことのように思い出すことができるようになります。これにAI(人工知能)が加われば、故人との会話さえ可能になるかもしれません。また、自分の嗜好にぴったりのAIとヴァーチャルな恋愛をし、遺伝子情報により最適なマッチングとされる相手と本人不在のまま子孫を残すことも技術的には可能です。そうなると個人やアイデンティティも、親子の関係も、これまでとまったく異なるものとならざるをえません。

 ちょっと不気味な未来の予測になってしまいましたが、心の内面性、単一性、唯一性といった特徴は、テクノロジーの進歩に先導される形で、現在徐々に変化していることを理解しておくことは重要だと思います。そうしないと、これからの変化の速度についていくことはできません。もう一つは、心を、内面性、単一性、唯一性によって捉える考え方は、人間の歴史のほんのわずかな期間に起こった考え方でしかなく、もちろん心の最終形態ではないし必然でもない、むしろ多くの偶然による途中経過に過ぎないということです。ここに、歴史を学ぶ意義があります。現在は必然でなく偶然の積み重ねの結果であるという認識は、今の自分や置かれている状況を相対化し、新しい価値の可能性へと向かわせてくれるものだからです。

長田 陽一(2020/7/28)