先日機会があり、初めて能楽堂でお能を生で観ました。能は私の専門である臨床心理学、特に心理療法との関連から、色々と考えさせられたり、ヒントをいただいたりできる古典芸能であり、ぜひ一度能楽堂で観たいと思いながら、今までなかなか機会を得られないでいました。

能では、深い悲しみ、無念、取り返しのつかなさ、絶望といった、何らかの、いかんともしがたい気持ちを抱えた登場人物(シテという。面をつけている人で、亡霊など、異世界の人でもあることが多いです)が、自らの思いを語り、舞います。それをワキという別の登場人物や観客、舞台全体で見届けます。これが心理療法と通じるところがあるといわれるところかと思います。心理療法ではクライエントはいかんともしがたい気持ちを抱えていて、それを面接の場で様々な形で表現します。それをセラピストが聞き届ける、見届けるということが、心理療法の仕事になります。しかるべき場においてしかるべき表現を行うことで、いかんともしがたい思いが浄化される、というところが両者に共通するところかと思います。

ということで、能には非常に関心を持っていたのですが、初めて能楽堂で観るお能は衝撃的でした。まず、音がすごい。音源は、謡いとセリフの声、笛、小鼓、大鼓、太鼓といった楽器の音、床を足で踏みしめる音くらいで、シンプルな構成なのですが、観ているこちらの身体も共鳴して震える感じで、能の舞台が展開する世界に引き込まれました。そうして、舞台が終わった時にはこちらの中の何かが浄化されたような、そんな感覚がありました。
やはり、何事も実際に体験してみることが重要と思いました。機会があればぜひ、能楽堂に足を運んでみてください。
京都光華大学 健康科学部 心理学科
教授 今西 徹
