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教員コラム

昔話と私

私の研究テーマの一つに昔話の心理学的研究というのがあります。昔話と心理学がどう結びつくのか不思議に思われるかもしれません。昔話の心理学的研究は長い歴史を持っています。精神分析の創始者のフロイトや分析心理学のユングがそれぞれの理論を考えるために昔話を研究するところから始まります。

さて、ここでは、私がどのようにして昔話の心理学研究をするようになったかについて述べてみたいと思います。まだ臨床心理学という専門の領域に入る前のことです。一冊の本の出会いからでした。それは河合隼雄先生の「昔話の深層」でした。初めは単なる興味からでした。童話や絵本は好きでしたし、何気なく手にとって読んだところ、その深い世界に心が躍りました。それは昔話の解説でもありながら、ユング心理学の解説でもあったのです。もっとこの世界のことを知りたいと思いようになり。その本に載っている参考図書を買い集めて行きました。なぜかたまたま書店で見つけるという不思議な体験をしました。その時は読むかどうかも分からないのにと思っていましたが、これらの図書が今の基礎になっています。

そして、大学院に入学し、いざ研究しようとすると、どう研究してよいのか、どこから手をつけてよいのかわからず途方にくれました。必死になって本を読むのですが、ユングやその後継者の心理学的研究はあまりに難解すぎました。昔話を心理学的に解釈したいという思いばかりで、自分の納得のいく解釈をするためのその方法論を見つけることができません。

それで、考えたことが昔話を何度も何度も読むということです。読んでいく中で、自分なりの方法論を見つけることができると思うようになりました。

それが、今の昔話研究につながっています。今までの心理学者の解釈の知見も考慮に入れながら、たくさんの昔話を読むことで、見えてくるものを大切にしたいと思います。そうして見えてきたものこそ、昔話が伝えてきた普遍の心だと思うのです。

千野美和子(2015年9月29日)


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  昔話から学ぶ人間の成長と発達
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