
京都光華大学社会学部社会共創学科の平松隆円准教授が担当する、キャリア形成学部キャリア形成学科の3年生ゼミでは、2026年度、残糸を活用したサステナブルTシャツの商品開発に取り組んでいます。
学生が挑戦するのは、Tシャツのデザインだけではありません。素材が抱える社会的な課題を調べ、どのような人に、どのような価値を届ける商品にするのかを考えます。さらに、製造工場への発注、価格や販売方法の検討、完成後のオンライン販売まで、商品が消費者に届く一連の過程を実践的に学びます。
人や社会にとっての「美」を考える平松ゼミ
平松ゼミでは、サステナビリティ、フェアトレード、オーガニック、ローカルメイド、ソーシャルプロジェクトなどの視点から、人や社会にとっての「美」とは何かを考えています。
美しい商品であっても、その製造過程で多くの資源が捨てられたり、環境や働く人に過度な負担が生じたりしていれば、社会全体にとって望ましい商品であるとは限りません。一方で、環境に配慮しているという理由だけでは、消費者に選ばれ、長く使われる商品にはなりません。デザイン、品質、着心地、価格、物語など、商品としての魅力も必要です。
そこで学生たちは、社会課題の解決と、消費者が「欲しい」「着たい」と感じる商品づくりを両立させる方法を学んでいます。2026年度のテーマとして選んだのが、残糸を使ったTシャツの商品開発です。
残糸とは?製造工程で余る糸を新たな資源に
残糸(ざんし)とは、織物や衣服などを製造する過程で、必要量を超えて準備されたり、使い切れずに残ったりした糸のことです。
品質に問題がない糸であっても、色、太さ、素材、量などの条件によって次の製品に使いにくく、工場に保管されたままになったり、廃棄されたりする場合があります。一部は作業用手袋などに再利用されてきましたが、商品の魅力を高める素材としては、十分に活用されてこなかったものもあります。
現在、繊維産業では、製造工程で生じる繊維くず、端材、残糸などを廃棄せず、新たな製品へ生まれ変わらせる資源循環の取り組みが広がっています。京都でも、西陣織の製造過程で生じる残反や残糸を商品開発に活用するプロジェクトが進められています。繊維資源を無駄にせず、産地の技術や素材の魅力を次の世代へつなぐことは、京都で学ぶ学生にとっても身近な社会課題です。
流行や性別に左右されず、長く着られるTシャツへ
ゼミ生たちが目指しているのは、残糸を使っていることだけを特徴とするTシャツではありません。性別にかかわらず着用しやすいジェンダーフリーなデザイン、流行に大きく左右されない形、繰り返し長く着られる品質を備えた商品を企画します。
衣服を長く使うためには、丈夫な素材を選ぶだけでなく、数年後も着たいと思えるデザインであることが重要です。また、環境に配慮した商品であっても、売れ残りが大量に発生すれば、新たな廃棄につながる可能性があります。
学生たちは、「自分が作りたいもの」だけでなく、「誰が、どのような場面で着るのか」「消費者はどのような価値にお金を払うのか」「無理なく生産・販売できる数量はどれくらいか」といった問いを重ねながら、商品企画を進めています。
ファッションデザイナー浜井弘治氏が商品開発に協力
今回の商品開発には、山口県下関市を拠点に活動するファッションデザイナー、浜井弘治さんにご協力いただいています。
浜井さんは、日本を代表する若手ファッションデザイナーの登竜門として知られる「第61回装苑賞」を受賞後、株式会社三宅デザイン事務所に服飾デザイナーとして入社しました。その後独立し、現在は「うるとらはまいデザイン事務所」を主宰しています。
これまで、工場に残った糸を活用する「残糸シャツ」、和紙を糸や生地として活用した「和紙デニム」、衣服を繊維に戻して再利用する製品など、ファッション産業が抱える課題を新たなデザインへ変える活動に取り組んできました。浜井さんが手がける服は、環境に配慮するだけでなく、素材の特徴や製造過程そのものを商品の魅力へ変えている点に特色があります。学生たちは、浜井さんとの対話を通して、社会の中で見過ごされてきた素材に、新しい価値を与えるデザインの考え方を学びます。
下関と京都の教室をオンラインでつないだ特別授業
2026年4月21日のゼミでは、山口県下関市にいる浜井氏と京都光華大学の教室をオンラインでつなぎ、特別授業を実施しました。
授業の前半では、浜井氏がファッションデザイナーを志したきっかけや、一般的なファッションデザインにとどまらず、残糸や和紙といった素材に注目するようになった経緯についてお話しいただきました。さらに、日本各地の繊維産地で、なぜ残糸や端材が発生するのか、品質に問題がない素材であっても活用が難しいのはなぜか、デザイナーが製造現場や地域の企業と協力することにどのような意味があるのかについて、具体的な事例を交えて解説していただきました。
学生たちは、完成した衣服を見るだけでは分からない、素材の生産、工場の仕組み、在庫、流通など、ファッション産業の背景に目を向けました。
生地を手で確かめ、デザインの可能性を話し合う
授業の後半では、学生たちが残糸から作られた複数の生地サンプルを実際に手に取りました。
一見すると似ている生地でも、糸の組み合わせや編み方によって、厚さ、柔らかさ、伸び方、表面の表情、手触りなどが異なります。写真や画面を見るだけでは分からない素材の違いを、学生たちは自分の手で確かめました。
「この生地なら、どのような形のTシャツが着やすいのか」「若い世代だけでなく、幅広い年代に選んでもらうには何が必要か」「残糸ならではの色や風合いを、どのようにデザインへ生かすのか」「長く着てもらうためには、どのような品質や縫製が必要か」
教室では、浜井さんから助言を受けながら、学生同士の活発な意見交換が行われました。素材に触れ、着る人の姿を想像しながら考えることで、アイデアが少しずつ具体的な商品へ変わっていきます。

デザインから製造、販売までを経験する実践型ゼミ
このプロジェクトで学生が学ぶのは、ファッションデザインの技術だけではありません。
商品の対象となる顧客を考えるマーケティング、商品の魅力を言葉や写真で伝える広報、原価と販売価格を考える収支管理、工場やデザイナーと意思を共有するコミュニケーション、役割を分担して進めるプロジェクトマネジメントなど、商品開発に必要なさまざまな力を身につけます。完成後は、オンラインなどでの販売にも挑戦する予定です。
実際に販売するためには、「良いものができた」で終わることはできません。商品の特徴を分かりやすく説明し、写真を撮影し、価格を設定し、注文を受け、購入者へ届ける必要があります。消費者から選ばれるかどうかという結果まで経験することで、学生たちは、社会課題を解決するアイデアを持続可能な事業へ発展させる難しさと面白さを学びます。
社会課題をビジネスの力で解決する
社会課題の解決とビジネスは、対立するものではありません。
良い活動であっても、継続するための収益や仕組みがなければ、一時的な取り組みで終わることがあります。一方、利益だけを優先し、環境や社会への影響を考えなければ、長期的に支持される事業にはなりません。残糸Tシャツの商品開発は、環境への配慮、地域産業との連携、デザイン、マーケティング、販売を一つにつなぐ実践的な学びです。
学生たちは、すでにある正解を覚えるのではなく、企業や専門家と協力しながら問いを立て、調査し、話し合い、試作と改善を重ね、自分たちなりの答えを形にしていきます。
社会共創学科につながる、企業や地域との学び
今回紹介したのは、キャリア形成学部キャリア形成学科の3年生ゼミです。企業や地域、専門家と協働して社会課題の解決に取り組む実践的な学びは、2026年4月に開設された社会学部社会共創学科にもつながっています。社会共創学科では、社会学を基盤に、経営、心理、文化、データサイエンス、情報、デザインなどを分野横断的に学びます。企業、自治体、NPOなどと連携し、新しい商品、サービス、イベント、社会の仕組みを企画する「社会共創プロジェクト」にも取り組みます。
「ファッションやデザインが好き」「環境問題やSDGsに関心がある」「自分のアイデアを商品にしてみたい」「企業や地域の人と一緒に社会課題を解決したい」
そのような興味や関心は、社会をより良くする学びの出発点になります。京都光華大学では、教室で知識を学ぶだけでなく、社会の現場で人と出会い、対話し、自分たちのアイデアを形にする実践的な教育を進めています。
学生たちは今後も浜井さんの協力を得ながら、残糸の魅力を生かしたデザインを検討し、試作、製造、販売へとプロジェクトを進めていきます。学生たちのアイデアがどのようなTシャツとして完成するのか、今後の活動にもぜひご注目ください。Instagram(nokoriito)でも、活動の様子をお知らせしています。
