
「顔が見えなくても、その人の印象は変わるのでしょうか。」
私たちは人と出会ったとき、顔の表情や話し方だけでなく、服装、姿勢、髪型など、さまざまな情報から相手の印象を受け取っています。では、相手の顔が見えない後ろ姿の場合でも、印象は変わるのでしょうか。
京都光華大学社会学部社会共創学科の平松隆円准教授は、顔が見えない後ろ姿であっても、「髪のつや」の違いが人物の第一印象に影響することを検証しました。この研究成果は、2026年6月27日(土)に京都女子大学で開催された一般社団法人日本繊維製品消費科学会2026年度年次大会で、「『天使の輪』は社会的印象を左右するのか? 後ろ姿における髪の艶の効果」と題して発表されました。また、2026年7月1日の中日新聞でも紹介されました。
化粧心理学・化粧文化論から「見た目」と社会を考える
平松准教授の専門は、化粧心理学、化粧文化論、ブランド戦略論、新事業創出です。
化粧心理学とは、化粧や身だしなみが人の心理、行動、対人評価にどのような影響を与えるのかを考える研究分野です。化粧文化論では、化粧や髪型などが、時代や社会のなかでどのような意味を持ってきたのかを読み解きます。
今回の研究も、「髪がきれいに見えるかどうか」という美容の問題だけを扱ったものではありません。髪のつやという身近な外見の手がかりが、他者からの印象や社会的評価にどのように関係するのかを検討した点に特徴があります。
顔ではなく「後ろ姿」に注目した研究
第一印象に関する研究では、これまで顔の表情や顔立ちなど、顔から得られる情報が重視されてきました。たしかに、私たちは相手の顔を見て、明るそう、親しみやすそう、まじめそうといった印象を抱くことがあります。しかし、日常生活では、相手の顔がはっきり見えない場面も少なくありません。
たとえば、通学や通勤の途中、教室や職場、店舗、駅、街なかなどでは、相手を後ろ姿や横から見ることも多くあります。そのような場面でも、人は相手の印象を受け取っている可能性があります。
そこで本研究では、顔が見えない後ろ姿の画像を用いて、髪のつやが人物印象に与える影響を検討しました。
女性だけでなく、男性の後ろ姿も対象に
従来、髪のつやは、女性の美しさや身だしなみの文脈で語られることが多くありました。
これに対して今回の研究では、女性の後ろ姿だけでなく、男性の後ろ姿も刺激画像として用いました。さらに、回答者にも女性と男性の双方を含め、髪のつやが男女を問わず印象に影響するのかを分析しました。
つまり、本研究は「女性の髪が美しく見えるか」という問題に限定されていません。髪のつやを、女性だけでなく男性にも関係する対人印象形成の手がかりとして検討した点に、新しさがあります。
つやのある髪は、髪質の印象を高める
調査の結果、男女を問わず、つやのある髪は、つやの少ない髪に比べて、髪そのものの質感に関する評価が高くなることが確認されました。
具体的には、つやのある髪は、「つるつる」「なめらか」「しっとり」「さらさら」「こしがある」「柔らかい」「明るい」といった項目で高く評価されました。
これは、髪のつやが、たんに光って見えるという視覚的な特徴にとどまらず、髪の手触りや健康的な状態を想像させる手がかりになっている可能性を示しています。
髪のつやは、人物の第一印象にも影響
さらに、つやのある髪の人物は、つやの少ない髪の人物に比べて、人物印象の項目でも高く評価されました。
調査では、つやのある髪の男性・女性は、「きれい」「清潔感がある」「華やか」「スタイリッシュ」「知的」などの印象で、男性回答者からも女性回答者からも高く評価されることが確認されました。
一方で、髪のつやが人物印象のすべてを一律に高めるわけではありません。本研究では、髪のつやが、清潔感、美しさ、洗練された印象など、髪の状態から連想されやすい印象に選択的に関係している可能性が示されました。
「身だしなみ」は社会との関わり方でもある
今回の研究は、髪のつやが外見上の美しさだけでなく、社会のなかで人がどのように見られるのかにも関係していることを示しています。もちろん、髪のつやだけでその人の価値が決まるわけではありません。
人の魅力や能力は、外見だけで判断できるものではありません。しかし、日常生活の中で、身だしなみが第一印象やコミュニケーションに影響する場面はあります。清潔感や整った印象は、学校生活、就職活動、接客、ビジネス、地域活動など、さまざまな場面で他者との関係をつくる手がかりになることがあります。
その意味で、髪のつやを研究することは、美容やヘアケアの問題だけでなく、人と人との関係、社会的評価、コミュニケーションを考えることにもつながります。
ヘアケア製品開発や男性美容への応用も期待
本研究の知見は、今後、身だしなみ教育、ヘアケア製品の開発、男性美容、接客・サービス分野の印象形成研究などへの応用が期待されます。
近年は、女性だけでなく男性にとっても、スキンケアやヘアケア、身だしなみへの関心が高まっています。髪のつやが男女を問わず人物印象に影響する可能性が示されたことは、男性向けヘアケア製品や、ジェンダーにとらわれない美容サービスを考えるうえでも重要です。
また、企業の商品開発やブランド戦略では、機能だけでなく、消費者が商品からどのような印象や価値を受け取るのかを考える必要があります。今回の研究は、髪のつやという具体的な視覚情報が、どのように印象や評価につながるのかを考える手がかりになります。
社会共創学科で学ぶ、身近な疑問から社会を読み解く力
社会学部社会共創学科では、社会学を基盤に、心理、文化、経営、データサイエンス、情報、デザインなどを分野横断的に学びます。
「なぜ人は第一印象を持つのか」「見た目や身だしなみは、社会の中でどのような意味を持つのか」「美容やファッションの商品は、どのように人の気持ちや行動に影響するのか」
こうした身近な疑問も、大学では研究テーマになります。
化粧、髪型、ファッション、広告、SNS、ブランド、ジェンダー、消費者行動などは、すべて社会と深く関わるテーマです。社会共創学科では、日常の中にある問いを出発点に、人々がよりよく生きる社会を考え、新しい価値を生み出す力を育てています。
美容やファッションに関心がある人、人の心理や印象に興味がある人、商品開発やマーケティングを学びたい人にとっても、社会共創学科の学びは大きな可能性を開いています。
研究成果を社会へ届ける
今後も化粧心理学や化粧文化論の視点から、外見、身だしなみ、美容が人の心理や社会的評価に与える影響を研究していきます。京都光華大学社会学部社会共創学科では、研究で得られた知見を教育に生かし、学生が身近なテーマから社会を読み解き、企業や地域と連携しながら新しい価値を創造する力を身につけられる学びを進めてまいります。
