2026.07.19 教員コラム

就活はなぜ黒髪? 平松隆円准教授が毎日新聞「キャンパる」で解説

就活中の男女大学生

就職活動では、なぜ「黒髪」が求められるのでしょうか。

京都光華大学社会学部社会共創学科の平松隆円准教授が、毎日新聞の学生記者によるコーナー「キャンパる」で、就職活動における「黒髪ルール」について取材を受けました。

記事は、2026年7月9日付の毎日新聞デジタル版「就活最前線 社会への適応や人格が分かる!? 『黒髪ルール』いまだ根強く 専門家『企業側の変革が必要』」および毎日新聞朝刊・東京版に掲載されました。

平松准教授の専門は、化粧心理学、化粧文化論、ブランド戦略論、新事業創出です。化粧や髪型、服装などの「よそおい」が、人の心理や行動、対人評価にどのような影響を与えるのか、またそれらが社会や文化のなかでどのような意味を持ってきたのかを研究しています。

 

就職活動で髪色を黒にする学生たち


7月は、大学4年生にとって就職活動が大きく進む時期です。また、大学3年生にとっては、就職活動が本格化する前に、企業のインターンシップやオープン・カンパニーなどに申し込み、参加する時期でもあります。

大学生活のなかでは、赤色、青色、茶色、金色など、自由な髪色を楽しんでいた学生でも、3年生の夏ごろから髪を黒くすることがあります。企業から明確に「黒髪で来てください」と指定されていなくても、多くの学生が「就活では黒髪の方がよいのではないか」と考えます。では、その意識はどこから生まれるのでしょうか。

 

黒髪は「まじめさ」や「清潔感」と結びつけられてきた


平松准教授によると、髪をめぐる差別や偏見は日本に限ったものではありません。欧米にも、赤毛や縮れ毛など、髪質や髪色をめぐる差別の歴史があります。
しかし、日本における黒髪の特徴を考えると、黒髪はたんに「生まれつきの多数派の髪色」というだけではありません。

日本では、黒髪が「まじめ」「清潔」「従順」「きちんとしている」といったイメージと結びつけられてきました。その一方で、黒以外の髪色は、「反抗的」「不適切」「派手」と判断されることがあります。この意識は、学校生活にも表れてきました。校則で茶髪を禁止したり、生まれつき髪色が明るい生徒に地毛証明を求めたり、場合によっては地毛が茶色のひとにまで黒染めを求めたりする問題につながってきました。

つまり、日本では黒髪がたんなる美的な好みを超えて、社会への適応や人格を測る記号のように扱われてきた面があります。


 

就活生はなぜ黒髪を選ぶのか


就職活動では、「悪目立ちしたくない」「自分だけ髪色が違うと評価が下がるのではないか」「ほかの学生が黒髪なら、自分も黒髪にしておいた方が安全だ」と考える学生が少なくありません。
平松准教授は、そこには同調、印象管理、評価不安が関係していると説明します。

就職活動では、採用の基準が学生から見えにくいことがあります。何が評価され、何がマイナスに受け止められるのかがわかりにくいからこそ、学生はできるだけリスクを避けようとします。周囲の学生が黒髪にしていると、それが「企業が求める正解」のように見えてしまいます。自分だけ異なる髪色にすることで不利益を受けるかもしれないと考え、黒髪を選ぶのです。これは、集団から外れたくないという規範的同調です。

また、黒髪によって「まじめ」「協調的」「仕事にふさわしい」といった印象を相手に与えようとする印象管理も働きます。さらに、本人が「本当に黒髪である必要がある」と考えていなくても、「企業は黒髪を求めているはずだ」と推測して行動することがあります。その結果、誰かが明確に命じているわけではないにもかかわらず、黒髪規範が再生産されていきます。

 

「自然な髪色」とは何か


就活生のなかには、「黒色でなくても、自然な髪色ならよいのではないか」「黒髪に近ければ清潔感があるのではないか」と考えるひともいます。
しかし、平松准教授は、「自然な髪色」とは、生物学的に決まるものというより、その社会で「普通」と見なされる範囲を指しているのではないかと考えます。

日本では、多数派である黒髪が基準になりやすく、そこから離れるほど「普通ではない」「規範から外れている」と受け取られることがあります。

また、「清潔感」という言葉にも注意が必要です。清潔感は、実際の衛生状態そのものではなく、見慣れた色、整った髪型、色むらや傷みの少なさなどをまとめて受け取った印象です。つまり、黒髪に近いほど本当に清潔であるということではなく、黒髪という標準への近さが、清潔感やまじめさに置き換えられている可能性があります。

 

誰が「常識」をつくっているのか


就職活動の髪色をめぐる問題では、企業は顧客を、公務員は住民や職場を、学生は採用担当者を想定し、否定的な評価を先回りして避けようとします。
これは、他者の期待を推測して外見を整える印象管理です。

「自分は気にしないが、周囲は気にするかもしれない」「企業は何も言っていないが、採用担当者は気にするかもしれない」「採用担当者は気にしなくても、顧客や職場のひとが気にするかもしれない」

このように、誰かがはっきり決めているわけではないにもかかわらず、互いに相手の目を気にしあうことで、髪色の規範が維持されていきます。「常識的におかしい」という言葉も、慎重に考える必要があります。この表現は、判断している主体を曖昧にし、個人の価値観を社会全体の意見であるかのように見せることがあります。

 

採用する側も「よそおい」の意味を考える必要がある


平松准教授は、以前にもWEB労政時報で「人事担当者が知っておくべき “よそおい” の機能」と題し、採用や職場におけるよそおいの意味についてコメントしています。
そこでは、よそおいは日々の社会的役割を演じわける衣装でもあると説明しています。

職場では、役職や業務にふさわしい服装や髪型が求められる場面があります。本人が「きちんとしている」とおもっていても、上司、同僚、取引先、顧客からは違う印象で受け取られることもあります。一方で、世代、生まれ育った社会、文化、価値観が異なれば、よそおいから相手を正しく判断することは難しくなります。

グローバル化が進み、多様なバックグラウンドを持つ人々がともに働く時代には、たんに「常識だから」と決めつけるのではなく、どのようなよそおいが、どのような印象を周囲に形成させるのかを理解することが重要です。採用する側にも、応募者の髪色や服装を一面的に評価するのではなく、その背景や意味を考える姿勢が求められます。


 

黒髪かどうかだけでひとを判断しない社会へ


採用する側と採用される側の両方から「黒髪」について考えると、単純に「黒髪でなければならない」と決めるだけでは不十分です。
黒髪を選ぶひとには、相手に安心感や信頼感を与えたいという理由があるかもしれません。一方で、黒色以外の髪色を選ぶひとにも、自分らしさ、文化的背景、信念、表現したい価値観があるかもしれません。

大切なのは、髪色だけでひとの能力や人格を判断しないことです。

就職活動における髪色の問題は、たんなる身だしなみの問題ではありません。社会がどのようなひとを「まじめ」と見なすのか、どのような外見を「ふさわしい」と考えるのか、多様性をどこまで受け止められるのかを考えるテーマでもあります。

 

社会共創学科で学ぶ、身近な疑問から社会を読み解く力


社会学部社会共創学科では、社会学を基盤に、心理、文化、経営、データサイエンス、情報、デザインなどを分野横断的に学びます。

「なぜ就活では黒髪が多いのか」「清潔感とは何を意味しているのか」「身だしなみは、どこまで個人の自由で、どこから社会的なルールなのか」「企業は多様性と印象管理をどのように両立すればよいのか」

こうした身近な疑問も、大学では重要な研究テーマになります。

化粧、髪型、服装、ブランド、広告、SNS、就職活動、ジェンダー、働き方は、すべて社会と深く関わっています。社会共創学科では、日常のなかにある問いを出発点に、人々がよりよく生きる社会を考え、新しい価値を生み出す力を育てています。美容やファッションに関心があるひと、心理や第一印象に興味があるひと、企業の採用やマーケティングを学びたいひとにとっても、社会共創学科の学びは大きな可能性を開いています。



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