2026.08.04

進化とヒトの心7(教員ブログ:上田Dr)

さて、進化とヒトの心5、6では、甘味、塩味、うまみについて、その進化的意味合いや、情動への関与についてお話をしてきました。これらは、情動としては「快」につながり、対象への接近行為を促す働きがあります。食べ物の場合は、食べる行動につながる、ということですね。
それでは、酸味や苦味はどうでしょう?

どちらも多少複雑です。まずは多少は単純な苦みについてみてみましょう。
苦味は、シアン配糖体のような、主に植物がつくる毒性成分に対する味覚として発達してきました。植物はあまり葉っぱを食べてほしくないので、食べられないように工夫し、あまりに毒であれば、確かに草食動物もそれを食べない、ということになるわけです。ただ、草食動物は、葉っぱを食べないと生きていけないので、苦味の受容体の種類を増やして、「食べれる苦さ」を検知したり、葉っぱに含まれるグルタミン酸に強く反応するうまみ受容体を開発したりすることで、草食のモチベーションを保つ、といった工夫を進化の中でしてきました(というか、そのような仕組みができた生き物が生き残ってきました)。ただ、やはり、苦味というのは、基本的には「不快」つまりその対象を避ける方向の行動につながる仕組みとして進化上は生まれてきました。
酸味はどうでしょう?皆さん、酸っぱい食べ物はお好きでしょうか?
イソップ童話に、「酸っぱい葡萄(狐と葡萄)」というお話があります。狐が、自分が飛び上がっても取れないところにある葡萄を、食べることをあきらめた後で、「あの葡萄は酸っぱいに違いない」と独り言をいう、というお話です。このお話では、「酸っぱい」ということが、食べる価値がない、あるいは食べられない(腐ってる、腐りかけている)と同義として扱われているわけです。
でもどうでしょう?私は、なんでもポン酢で食べることが好きです。とんかつを食べるのも、ソースではなくておろしポン酢で食べます。おいしいですよね。
酸味に関しては、例えば子供のほうが大人より酸味が好き、男性より女性のほうが酸味がすき、という大きな傾向があることが知られています。また、酸味を好むかどうかは種によって大きく異なり、両生類、爬虫類などは酸味を非常に嫌いますが、われわれ、すなわち猿の仲間については、割と酸味を好むことが知られています。つまり、酸味については、「食べるな」という刺激である側面もあり、一方で「食べろ」という刺激にもなりうる、わりと文化によっても変わりうる刺激であると考えられています。



さぁ、これで基本五味についてのお話が終わりました。

次は、いったん味覚を離れ、進化と病気について、ちょっとお話しします。

https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/8641.html 参照日20260420
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/10902.html 参照日20260422
ヒトの酸味選好性の多様性と役割 ―進化の観点から― 深野祐也 食と緑の科学 第77号 41-45(2023)
苦味感覚と解毒の進化:チンパンジー、コアラ、カモノハシ 早川卓也
The Journal of Toxicological Sciences Vol. 48, Supplement, 2023.

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