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教員コラム

言語聴覚士と診療報酬改定

 診療報酬というのは病院などの医療従事者が患者さんに対して行った医療行為に対して支払われる報酬のことで、病院の収入となるものです。病院に勤務する言語聴覚士の給与もこの収入で賄われます。この診療報酬は日本では中央社会保険医療協議会(略して中医協)の答申を受けて厚生労働大臣が決定します。2年に一回改定され、次の改定時期は今年の4月となります。

 それに先立ち、去る2月10日付けで、中医協会長より厚生労働大臣に対して答申書が提出されています。この答申書を読むと、p182に『要介護被保険者の維持期リハビリテーションの介護保険への移行等』という項目があり、そのなかに「急性期、回復期リハビリテーションは主に医療保険、要介護被保険者等の維持期リハビリテーション(入院中の患者を除く) は主に介護保険、という医療と介護の役割分担を勘案し、標準的算定日数を超えており、 状態の改善が期待できると医学的に判断されない場合の脳血管疾患等リハビリテーション、廃用症候群リハビリテーション、運動器リハビリテーションについて評価の適正化を行いつつ、介護保険への移行を図る。なお、要介護被保険者等に対するこれらのリハビリテーションは、原則 として平成 30 年3月までに介護保険へ移行するものとする。」と記され、付表では改訂前の「維持期リハビリテーションを受ける患者が要介護被保険者等である場 合に算定する点数:本則の 100分の 90 」が改定後は100分の60へと大きく減額されております。

 この答申書における維持期リハビリテーションというのは、脳血管障害の場合、発症して

180日を経過した後のリハビリテーションを意味します。神経内科の外来で脳血管障害の患者さんを多く診療してきた私自身の経験では、脳梗塞や脳出血などにより失語症や嚥下障害、また片麻痺をきたした患者さんのなかには、180日どころか2年あるいは3年経過しても着実に機能の改善を認める方を少なからず拝見します。また、著しい改善を認めなくても機能維持されていた患者さんが、何らかの事情でそれまでのリハビリテーションを中止すると明らかな機能低下をきたします。

    病院でのリハビリテーションにおける診療報酬の減額は病院の減収に直結しますから、病院としては維持期のリハビリテーションに通院されていた患者さんをお断りして、介護保険が利用できる施設へ誘導せざるを得なくなります。しかしながら、長らく親しんだ病院の施設や言語聴覚士と別れて、新たな介護施設や言語聴覚士のもとへ向かうことに多くの患者さんや家族は大きな不安を訴えられます。また、介護保険を利用したリハビリテーションに移行した患者さんからは、介護施設でのリハビリテーション内容が不十分だから、病院でのリハビリテーションに戻して欲しいという訴えも聞きます。なかには、リハビリテーションに対する意欲を失って、自宅に籠りっきりになる患者さんもおられます。このような現状を見聞きすると、要介護認定を受けている維持期の患者さんも一律に介護保険のリハビリテーションに移行するのではなく、本人の希望に応じて病院でも介護施設でもリハビリテーションを受けることが可能な診療報酬体系であって欲しいと、私は願うものです。

 言語聴覚士を目指して日々学習に勤しんでいる学生さんも、診療報酬改定の動向には注目してもらいたいと思います。

渡辺俊之     2016/02/29